泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

明石市の待機児童対策費126億円の3/4は国依存、1/4は借金依存の現実

この10年間、都市部を中心に、保育所の待機児童が大きな社会問題となり、国家的課題としてクローズアップされてきました。子育て世帯の転入が相次ぎに乳幼児人口の増加を誇る地域においては、保育所の整備が乳幼児の数の増加に追いつかず、待機児童が急増します。新規に保育所を整備しても、新たな子どもの増加や就労希望の母親の増大により、保育ニーズは一層高まり、はたまた待機児童が増加する、というイタチごっこ自治体(市)は頭を抱えることになります。

 

国は2013年度以降、「待機児童解消加速化プラン」や「子育て安心プラン」などに基づき、保育所認定こども園などの整備を促してきました。通常、私立保育所が、保育所を新築または増築する場合には、工事の所要額の2分の1を国が負担し、市町村と事業主が4分の1ずつ負担するルールとなっています。それに対し、待機児童解消のため緊急に施設整備に取り組む場合には、国の補助率(負担割合)を3分の2に引き上げ、期間限定の「大盤振る舞い」をして保育所の整備が進められてきました。

 

明石市でも、2010年代に入って乳幼児人口の増加に伴い、待機児童数が急増、2017年2月には618人を記録、2018年4月時点でも571名で全国ワーストワンとなり当時話題になりました。

 

平成30年4月に待機児童数 出典は厚生労働省資料

 

不名誉な事態に直面し、市は緊急対策に着手しました。その後の施設整備などの対策が功を奏し、2022年4月時点での待機児童数は100人にまで減少したようです。

 

5年間で、待機児童数が大幅に減少した成果を、房穂市長殿は自慢げにPRしているのではないか、と思いきや、そうでもなさそうです。全国の市町村の待機児童数を単純にリスト化すると、明石市はワースト3位に留まっていることが気に食わないようで、ツィッターでは「潜在待機児童」と「見かけの数字」の違いについて雄弁に語っておられます。

 

また泉市長は、9月4日には、「明石市は、待機児童対策として、この6年間で受け入れ枠を5908人分拡充し、6年前に比べて2倍以上(約2.3倍)に増やしている。」とツィートしています。

 

 

明石市において、保育所認定こども園の新築・増築などを進め、待機児童の受け皿を拡充してきたのは事実なのでしょう。では、待機児童対策に、これまでどの程度の予算が投入され、その費用を市の当局はどのように捻出したのでしょうか。今回は、待機児童対策の費用と財源について検証してみます。

 

皆さんは、「予算事業説明シート」を見たことがあるでしょうか。明石市では、各予算事業について、事業所管部局名や事業の目的・目標、事業内容、事業コスト、事業費明細等を1枚の個票に整理し、公表しています。

 

明石市のホームページにおける収納場所はわかりづらいですが、

ホーム > 市政情報 > 財政・予算 > 財政のあらまし(明石市の財政関連情報) > 当初予算事業説明シート

と進んでいくと、平成27年度以降のシートの目次のページにたどり着きます。

https://www.city.akashi.lg.jp/zaimu/zaisei_ka/shise/zaise/aramashi/jigyosetsume/index.html

 

 

この「予算事業説明シート」を過去に遡って通覧することにより、各事業の予算規模等の経年的に把握することが可能です。

 

今回の調査対象は、「私立保育所認定こども園等整備(待機児童対策)事業」です。直近の令和4年度の説明シートを閲覧してみましょう。シートの真ん中あたりの「事業内容」の欄には、平成29年度以降の事業実績が記されています。

 

明石市の「令和4年度 予算事業説明シート」

 

そしてその下段には、「事業のコスト」欄があり、令和2年度決算、令和3年度当初予算、令和4年度当初予算案について、それぞれの事業費や財源内訳が記載されています。

 

具体的に見てみると、

令和2年度決算については、

 事業費 3,084,522千円

 国・県支出金 2,253,210千円

 地方債 786,200千円

 その他特定財源 16,642千円

 一般財源 51,150千円

となっています。

 

「国・県支出金」の欄は、国支出金と県支出金の合計合算で記載されますが、当該事業は、基本的には県予算は支出されないので、この欄の金額はほぼ国支出金です。従って、「国・県支出金」は「国支出金」と読み替えることにします。

 

また、千円単位は細かすぎるので、1000万の単位でまとめることにします。なお、「その他特定財源」と「一般財源」は比較的金額が小さく、また、決算でイビツな端数調整が行われている可能性があり、扱いが面倒ですが、「事業費」から「国支出金」と「地方債」を差し引いた残額を「その他」と整理します。「その他」には、「その他特定財源」と「一般財源」が含まれます。

 

そうすると、令和2年度決算は、

 事業費 30.8億円

  国支出金 22.5億円

  地方債 7.9億円

  その他 0.4億円

と簡素化できます。

 

同様に、令和4年度当初予算の欄の数字を拾っていくと、

 事業費 15.7億円

  国・県支出金 11.7億円

  地方債 3.7億円

  その他 0.3億円

となります。

 

令和3年度以前の過去の説明シートを辿り、同じ方法で「事業のコスト」欄の数値を確認していくと、次の表になります。なお、平成28年度から令和2年度までは決算(実績値)であるのに対し、令和3年と4年は当初予算の額ですのでご留意下さい。両者を同列に扱うことは、厳密には適切とは言えませんが、おおよその傾向を探るという点では、問題ないと考えます。

 

 

平成28年度から令和4年度までの7年間の「私立保育所認定こども園等整備(待機児童対策)事業」の総額は125.6億円で、内訳は「国支出金」が93.5億円、「地方債」が30.9億円であることが読み取れます。「その他」は1.2億円ですが、事業費明細の記載からは、建設(ハード整備)に関する直接的経費ではなく、関連するソフト経費であることが推測できます。

 

要するに、保育所の定員増を図るため、明石市では保育所施設の新築・増築に7年間で125.6億円が投入されており、その財源としては、国からの補助金が93.5億円(74.5%)、市が起債した借金が30.9億円(24.6%)を占めていることが判明しました。

 

 

ちなみに、公立保育所の施設整備には、国の補助金は充当できません。それでは、いかなる財源で公立保育所の増築等を行っているのでしょうか。それを確かめるため、「予算事業説明シート」の別の個票「公立保育所整備事業」を探ってみました。

 

どうやら、公立保育所の施設整備のための費用の太宗を地方債でまかなっており、平成28年度から令和4年度までの7年間に、3.7億円が起債されていることが明らかになりました(ただし、平成28年度から令和2年度までは決算値で、令和3年と4年は当初予算額です)。

 

国の補助金と地方債に依存した明石市の待機児童対策の真相がご理解いただけたと思います。国は子育て支援に全くお金を出さないだの、国債を容易に発行できる国と違って自治体は借金は困難だのといったツイートを日々繰り返しておられる泉市長殿の主張とは、待機児童対策の実態は大きく乖離していると言わざるを得ませんね。