泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

明石市の図書館、「本のまち」と呼ぶには恥ずかし過ぎませんか?

泉房穂市長は、2022年12月8の市議会の質疑の中で、来年度から西明石、大久保、二見の三カ所に図書館を整備する旨を答弁しました。その後、泉市長は例によって、図書館関連の話題を頻繁にツイートしています。

 

これまで、明石駅前の市民図書館と分館にあたる西部図書館の2カ所しか図書館が無かったことの方が大問題であり、「本のまち」を標榜するのであれば図書館を分散整備するのは至極当然のことであり、遅きに失したと言わざるを得ません。

 

と言いつつ、泉市長殿は、本に対し並々ならぬ情熱を持っているようです。

 

12月9日には、こうツイートしています。

    



日経BP総合研究所が運営するウイブサイト「新・公民連携最前線」の2017年のインタビューでは、次のように熱弁を振るっています。

私自身、子どもの頃から、大人になったら壁一面が本棚になった家に住みたいという夢を持っていたぐらい、本が大好きでした。今も空き時間があると図書館や本屋さんによく行きます。本というのは単なる紙ではなく、歴史の時間を越え、国境を越えて様々な人と出会い、つながることができます。いろいろな学びのきっかけになるものです。

 

 本を明石のまちづくりの中心に位置付けて、人々に住みたいと思ってもらうための売りにしようという考えは、市長になる前から持っていました。市長に立候補したのもそれを実現したかったからなので、念願かなって具体化を進めている途中というわけです。

        



「歴史の時間を越え、国境を越えて様々な人と出会い、つながることができます」という指摘は全く同感です。各市が運営する市立図書館の中を一望するだけで、その市の文化水準や将来の発展性を推し量ることができると言っても過言ではありません。それくらい、まちにとって、図書館は重要な文化資産です。

 

では、現状、明石市の図書館には十分な蔵書ストックが存在するのでしょうか。今回は、明石市の図書館事情について検証してみます。

 

中核市の蔵書冊数を比較すると

ある市の図書館の蔵書数の多寡を評価する単純な方法の1つに、同じ規模の市の蔵書数を比較してみるという手法があります。明石市は、全国に62存在する「中核市」の1つなので、他の中核市と蔵書数について比べてみるのです。中核市の市長により構成される「中核市市長会」において、毎年、「都市要覧」という名称の統計資料集を発行しています。様々な興味深い統計データが満載ですが、各市の市立図書館の蔵書数も一覧できます。

 

令和3年度版「都市要覧」には、令和3年4月1日時点の各市の蔵書冊数が掲載されています。多い順に並べてみましょう。

 

最多の1位宇都宮市の176万冊から、最少の62位甲府市の40万冊まで大きな開きがありますが、我が明石市は62万足らずの冊数で55位(下から8番目)に留まっています

 

ただし、この手の比較を行う際には、自治体の規模を考慮する必要があります。例えば、人口が100万人で蔵書数が100万冊の市と、人口が20万人で蔵書数が70万冊の市を比べると、数字の上では前者の自治体のほうが冊数は多いですが、人口を考慮すると明らかに後者のほうが文化の香りが高い自治体と言えます。

 

このため、「都市要覧」では「市民100人当たりの蔵書冊数」も同時に示されています。多い順に並べてみると、こうなります。

 

 

明石市は、さきほどの単純な蔵書冊数ランキングよりは若干順位は改善しますが、それでも、62市中50位に留まります。最多の松本市と比べると、市民一人当たりの図書館の本の数は40%以下に過ぎません。このランキングをみると、とてもとても恥ずかしくて「明石は本のまち」だなんて口にできません。ランキングの上位の自治体の住民の人たちからはバカにされてしまうでしょう。

 

蔵書数を評価する際の留意点

もっとも、この手の数値データでは、量(冊数)の比較は可能ですが、質の評価はできないという根本的欠陥があることに留意が必要です。一口に書籍といっても、1冊500円から1000円程度の文庫や新書本から、1冊1500円~3000円程度の実用書・一般書、さらには1冊5000円~1万円の専門書、1冊数万円の大型美術書や特殊本まで、実に様々なものが存在します。1冊8000円の専門書を購入する予算があれば、800円の文庫・新書を10冊買うことができます。

 

なので、図書館が低額の書籍を大量に購入すると、見かけ上蔵書冊数を増やすことができるでしょう。けれども安い本ばかりだと、質は維持できません。レベルの高い図書館ほど、様々なジャンルや単価の本を購入しているはずです。

 

ちなみに、明石では歴史的に、市立図書館では比較的安価な実用書・一般書を中心に購入し、専門書はお隣の県立図書館で揃える、という役割分担がなされてきました。専門的なことを調べたければ、移転前は徒歩0分、現在でも徒歩10分で県立図書館に移動すればいいので、市立図書館に専門書がなくても市民から不満が出ることはありません。

 

このような役割分担がなく、自館でもある程度専門書を揃える必要がある他の市と比べると、明石市は、書籍購入の点で極めて有利なはずです(県立図書館にフリーライド(ただ乗り)していながら、県立図書館にケチをつける愚については、後日別に論じます)。このような事情も考慮すると、なおさら明石市の蔵書数は寒すぎます。

 

明石市の書籍購入予算

では、明石市では年間どの程度の予算が書籍購入に充てられているのでしょうか。書籍購入費については、市立図書館が毎年発行している「年報」で確認することができます。平成27年版以降のものがホームページに掲載されています。

https://www.city.akashi.lg.jp/seisaku/hon_shitsu/toshokannenpo.html

 

「年報」からの具体的な確認方法としては、①「経費」の欄に記載されている図書等の資料費(前年度決算見込額と当該年度予算額)を見る、②「市民1人当たりの利用」の表の「1人あたり図書費」の数値と人口をかけ合わせる、ことにより把握することができます。

 

     

 

いずれにしても、図書館の「年報」から次のことが判ります。

  • 平成23年度から令和4年度に至るまで、毎年、年間の図書購入費用は約4000万円である
  • ただし、平成27年度と28年度には別途、「新館準備用図書」として、それぞれ6000万円強計上された
  • 令和2年度の図書購入費4290万円に対し、令和3年度は3930万円と360万円(率では8.4%)減額された

 

     

 

子ども施策と称して、個別給付のバラマキを行う財政的余裕があるのであれば、それよりも先に、図書購入費を最低でも2倍以上に増額して、蔵書の充実を図ることにプライオリティをおくべきと考えます。

 

とにかくもっと蔵書を増やさない限り、「本の年間貸し出し数300万冊」という市長の政策目標は画餅に終わってしまうでしょうね。

 

 

(参考)貸出冊数について

 「本の年間貸し出し数300万冊」という政策目標を達成するためには、1人あたりの年間貸出冊数は10冊に達する必要があります。上の表から分かるように、旧館時代の平成28年の5.7から、移転直後の平成29年には8.3と急上昇しました。ただしその後、やや失速し、30年、令和元年は8.1に留まりました。令和2年、3年の減少は、コロナの影響です。今後、西明石、大久保、二見の3カ所に図書館を新設するなど、いずれにしても蔵書数の充実なくして、10に達するのは不可能と思われます。