泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

明石市の地価は大して上昇していないという、不都合な(?)真実

泉市長の持論である「子育て対策の充実によって地価が上昇した」とする見解が、インフルエンサーのツイートや、情報サイトでの発信などを通じて拡散されています。

 

フォロワー数225万人を誇るひろゆき氏は、2022年10月12日に、「明石市長が子育て対策をして、人口増、地価上昇と地域経済も活発化」とツイートしています。

 

また、デモクラシータイムスとうニュース解説サイトでは、評論家の山岡淳一郎氏が泉房穂市長にインタビューした動画を配信しつつ、「明石市な大胆な「子育てまちづくり」が若い世代を引きつけ、人口、来街者、地価、市税収入アップの好循環」とツイートしています。

 

そして、明石市の地価が子育て支援の充実の効果として上昇しているとする風説が、あたかも自明の事実であるがごとく、SNSでは広く流布しています。いくつか例をあげてみます。

 





果たして、明石市の地価は実際のところどの程度伸びているのでしょうか、そしてその伸びは子育て支援対策に依るものなのでしょうか。今回は、その点を検証してみます。

 

さて、そもそも地価って何でしょうか。名前のとおり、土地の値段ことで、不動産市場において土地の売買が成立した際に決まり、その土地の経済的価値が反映されています。民間・個人間の土地取引は本来プライバシーの要素が高く、個別の取引価格がオープンにされるものではないですが、不動産業界における相場観として実勢価格が算出されます。

 

ところで、毎年、3月や9月になると、地価がテレビや新聞で大きく取り上げられますね。これは、行政が調査・鑑定した「地価」を公表するからなのですが、実勢価格を直接反映するものではなく、行政から委託された不動産鑑定士が鑑定した結果を行政が集計して公表したものです。

 

行政が調査し公表する「地価」には、「公示地価」と「基準地価」があります。前者は、国土交通省が例年3月に公表する数値で、地価公示法に基づき1月1日時点の全国約2万3千カ所の標準地の地価を評価したもので、例年3月に公表されます。後者は、各都道府県が例年9月に公表する数値で、国土利用計画法に基づき7月1日時点の全国2万カ所以上ある基準地の地価を評価したものです。

 

公示地価と基準地価は、調査の対象地が一致しておらず、また、調査時点も半年のズレがありますが、調査のスキームは共通しているので、公示地価と基準地価の両者を合わせることにより情報の密度を高めることができます。

 

公示地価と基準地価は住宅地、商業地、工業地に区分し、前年の数値と比較してマスコミで報じられ、各自治体はその結果に一喜一憂していている実態があります。しかしながら、公示地価も基準地価もいずれも、土地取引の目安として、毎年決まった特定の地点の数値が公表されるもので、当該自治他の実勢価格を直接反映したものではありません。

 

それに、特定の年に突発的な事象が生じ、結果として、当該年だけ特異な数値を示すことがあるので、1年前と比べて上がった・下がったと論じるのは、不毛なことです。経年推移を見るのでれば、本来は、3~5年、ないしそれ以上の長いスパンで評価すべきことなのです。

 

ただし、長期スパンで経年数位を評価する際には、調査対象地点(標準値、基準値)が年々増加していることに留意が必要です。例えば、ある自治体において調査地点が前年まで10カ所だったのが、今年から3カ所増えて13カ所になったとします。マスコミなどが取り上げる数値は、当該自治体の当該年の数値を単純平均したものなので、前年までは10カ所の平均値、今年は13カ所の平均値が、リストアップされます。

本年追加となった調査地点が、前年までの10カ所の平均値に近似した地価のエリアであれば、特段問題ないですが、土地取引が活発、裏を返せば自治体内で人気のある地域で調査地点として追加される傾向にあるので、そうすると、単純平均すれば、例年までと比べて本年は高めの値が出ることになります。データの補正作業を行っていない単純平均の数値は、あくまでも一つの参考値としての意味しかありません。

 

 

ということで、以上の予備知識を前提として、2012年度から2021年度の兵庫県10万人都市の人口推移のグラフをツイートされた泉房穂市長殿に敬意を払いつつ、泉市長と全く同一の手法により、公示地価と基準地価を合わせた各市の地価の各年単純平均値の推移をグラフ化して見ることにします。

 



泉市長の人口推移のグラフと、各市の折れ線の色は統一します。泉市長の人口推移のグラフと異なる点は、①地価情報については、2022年のデータが公表されているので、2022年分もグラフに記入していること、②人口10万人にわずかに満たない芦屋市の地価推移を紫色で示していることです。

 





泉市長が市長に就任したのは2011年のことで、それ以降地価の推移を見ると、なるほど明石市の地価は基本的に上昇傾向にあることが見て取れます。ただし、増加の幅は微増に留まっており、神戸市、芦屋市、西宮市、加古川市よりも大きく見劣りし、また、姫路市宝塚市伊丹市尼崎市よりも下位に位置しています。

 

泉市長殿は、お隣の加古川市のことを、人口が激減していると日頃からディスっておられますが、その加古川市の地価は2012年と比較して2022年は20.7%増です。対する明石市では、2012年と比較して2022年は7.9%の伸びに留まっています。泉房穂市長の御言葉をオウム返しするようですが、まさに「数字は正直」なのです ^^;  。

 

泉市長殿は、子育て支援対策が功を奏して、明石市は7年連続地価が上昇する好循環が生じているだのとのたまっておられますが、子育て支援の充実による大幅地価上昇」言説が、根拠のない妄言・虚言のたぐいであることは自明のことです。

 

もっとも、子育て支援の充実が、地価の上昇に全く寄与しないとまでは主張するものではありません。しかしながら、需要・供給のバランスに規定される地価に影響を及ぼす多種多様なファクターの中で、子育て支援の充実が地価に影響するウエイトは決して高いものではありません。

 

以下のようなツイーツは、まさしく正鵠を射ているように思われます。

 

 

 

(参考)地価増加率のグラフの元データ

 

市区町村 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
明石市 110,394 110,863 112,450 112,893 113,208 113,844 114,663 116,615 117,894 117,645 119,112
尼崎市 202,409 199,704 204,602 205,611 207,990 212,792 213,730 215,256 217,216 219,955 222,491
西宮市 232,837 238,050 247,207 252,764 256,171 261,757 267,147 272,414 276,950 280,417 285,163
伊丹市 165,786 166,389 167,155 168,731 170,536 172,550 174,634 177,989 183,062 185,195 188,623
宝塚市 150,971 157,910 159,813 160,239 161,009 161,777 162,658 165,335 167,577 169,850 172,061
神戸市 189,830 193,022 208,073 211,457 211,061 221,540 235,047 251,831 266,264 262,287 262,213
姫路市 83,181 83,916 83,519 83,663 83,373 83,860 85,085 93,481 94,533 96,271 96,000
川西市 107,110 106,429 106,553 105,862 105,050 102,900 102,365 103,457 104,457 106,480 107,834
加古川市 74,876 77,361 77,922 78,504 81,033 81,529 82,048 84,895 86,722 86,983 90,391
三田市 65,558 65,120 68,300 67,276 67,050 63,594 63,403 63,252 62,293 63,510 63,520
芦屋市 292,691 293,588 295,453 304,484 321,867 330,955 339,235 349,073 362,897 369,602 380,750

各年各市における公示地価と基準地価の全ての数値を単純平均したもの。例えば、明石市の2012年の数値は、公示地価の標準地37カ所、基準地価の基準地31カ所の計58カ所の地価の値を単純平均したもの。また、明石市の2022年の数値は、公示地価の標準地51カ所、基準地価の基準地32カ所の計83カ所の地価の値を単純平均したものである。住宅地、商業地、工業地の区分もしておらず、ラフな計算であるが、恣意的要素は存在しない。

 

2012年の各市の地価を100としたときの経年推移(増加率)

市 名 2012年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年
明石市 100 100.4 101.9 102.3 102.5 103.1 103.9 105.6 106.8 106.6 107.9
尼崎市 100 98.7 101.1 101.6 102.8 105.1 105.6 106.3 107.3 108.7 109.9
西宮市 100 102.2 106.2 108.6 110.0 112.4 114.7 117.0 118.9 120.4 122.5
伊丹市 100 100.4 100.8 101.8 102.9 104.1 105.3 107.4 110.4 111.7 113.8
宝塚市 100 104.6 105.9 106.1 106.6 107.2 107.7 109.5 111.0 112.5 114.0
神戸市 100 101.7 109.6 111.4 111.2 116.7 123.8 132.7 140.3 138.2 138.1
姫路市 100 100.9 100.4 100.6 100.2 100.8 102.3 112.4 113.6 115.7 115.4
川西市 100 99.4 99.5 98.8 98.1 96.1 95.6 96.6 97.5 99.4 100.7
加古川市 100 103.3 104.1 104.8 108.2 108.9 109.6 113.4 115.8 116.2 120.7
三田市 100 99.3 104.2 102.6 102.3 97.0 96.7 96.5 95.0 96.9 96.9
芦屋市 100 100.3 100.9 104.0 110.0 113.1 115.9 119.3 124.0 126.3 130.1