泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

基金を70億→121億円に積み増したと自慢する、救いようの無さ

泉房穂市長は、ツイートやインタビューなどにおいて、自らの市長在任期間の「実績」の自慢話に余念がありません。しかしながら、市長が自身の手柄とのたまう事柄の多くは、実際には自慢すべきことでも何でもなく、自身の輝かしい功績だと誇ることがむしろ恥の上塗りにも等しい愚行ともいうべき事項も少なくありません。

 

その例の1つが、在任期間中に基金を積み増したという自慢話です。ご自身の在任期間中に、明石市基金残高を70億円から121億円にまで増やしたということを、泉市長殿はあちらこちらで吹聴しています。例えば、文春オンラインでは、「就任時に70億円まで減っていた貯金を121億まで増やし、普通にやれば貯金ができる財政構造に変えた」と述べています。

 

 

泉市長は、ツイッターでも、基金を70億円から121億円にまでに積みましたということを頻繁につぶやいており、このツイートを引用して、素晴らしいと賞賛するリツイートも時々見かけます。

 

今回は、自治体の基金について取り上げ、

この15年間ほど、全国にみて自治体の基金残高は増大の一途をたどり、ことさら明石市だけが、基金積み増しという功績をあげているわけではない

基金が積み上がっていることは、自治体が本来行うべき行政サービスルを十分に行っていない、あるいは公共投資を十分に行っておらず将来にツケを回していることをも意味し、首長が自慢すべき事柄ではない

ということをお話します。

 

そもそも「基金」とは?

ナントカ基金という名称を時々耳にすることがあると思いますが、基金とは本来、特定の目的に利用するために資金を積み立てたプール金のことを指します。とは言っても、ピンとこないかも知れませんが、基金の語は、3つの異なる文脈で用いられているようです。

 

1つは、学術や慈善事業等の公益を目的とした基金です。公益法人NPO団体が、企業や個人から寄付を募って○○基金という名称で基金を造成し、福祉や環境保全などの慈善活動にそのお金を用いたり、若手研究者に研究資金を援助することがあります。ノーベルがダイナマイトで稼いだ遺産であるノーベル基金も、このカテゴリーの基金です。

 

2つめは、投資家から資金を集め、出資先企業に対し、主として出資の形で資金を供給する投資事業組合のこと指して用いられます。1つめの基金が非営利のシンボルであるのに対し、こちらの基金は利潤の追求を目的としたものです。こちらは日本語の「基金」ではなく、「ファンド」と称されることのほうが一般的です。

 

そして3つめが、都道府県や市町村など自治体が、一定の目的のために他の財産と区別して積み立てておく貯金のことを指して基金と称されます。一口に基金と言っても、自治体の基金は、1つめの非営利団体基金や2つめの営利団体基金とは全く別物です。今回は、この3つめの自治体の貯金であるところの基金にスポットをあてます。

 

自治体の基金の基本的な考え方

わが国の行政には「単年度主義」という大原則が存在します。これは国と市町村に共通するルールで、1年ごとに毎年予算を立てて使い切らないといけない、複数年度にまたがる財政運用は認めない、という考え方です。単年度主義によって、非効率的で無駄が生じているという批判がなされますが、この原則のおかげで財政規律が維持されているというメリットもあります。

 

ただし、単年度主義にはいくつか例外があって、その例外の1つが、基金の積み立てです。1年で使い切るという予算のルールに縛られることなく、将来に必要とされるお金をプールしておき、お金の用立てが必要になったときに機動的に活用することができる仕組みが自治体の基金なのです。

 

サラリーマン家庭の家計を例にとって考えてみましょう。月給やボーナスの額を予測して家計のやりくりを検討する際に、収入の全額を使い切るのではなく、将来に備えて貯金しますよね。家や車など特定のものを購入するための貯蓄、病気になったり災害で自宅が損壊するなど急な出費に備えた蓄え、あるいは老後に備えた長期的な蓄財など様々な側面がありますが、いずれにしても一般家庭では将来に備えて貯金を行うものです。

 

貯金にあたっての考え方は、家庭や個人によって様々ですが、一般的には、収入額に比例して貯金の額は多くなる傾向にあります。中には、収入が多くても、あまり貯金に回さず使い切る生活パターンの人がいたり、逆に、収入は多くなくても、極力お金を使わない生活を心がけ、貯金を増やすことに重きをおいている人もいますよね。そして、日本では古くから後者のほうが堅実な生活設計として賞賛されてきました。

 

自治体の基金も、基本的な考え方は一般家庭の家計と全く同じで、要するに将来に備えた貯金なのです。自治体においても、入ってくるお金(収入)と、使って出て行くお金(支出)の差額によって基金の額は左右され、前者が後者を上回り決算剰余金が多くなれば基金として積み立てられる額は増大し、逆に後者の方上回れば、基金を切り崩してやりくりすることになります。

 

ただし家計においては、できるだけ貯金を増やすことが堅実で美徳と見なされる傾向にありますが、自治体においては闇雲に基金を増やせばいいというものではありません。それどころか現在では、自治体の基金が増えすぎていることが、むしろ大きな社会問題になっているといるのが実情です。

 

全国的に増大し続ける自治体の基金残高

 

少し古い資料ですが、総務省は2017年に、都道府県・市町村を対象に、基金の積立状況等に関する調査を実施し、同年11月に結果を公表しています。この調査では、2006年度末から2016年度末までの基金の増減額に関し、基金別、都道府県・市町村別にその要因が示されています。ここでは詳細の説明は省きますが、基金残高の推移のグラフだけを引用します。

  出典:地方公共団体基金の積立状況等に関する調査結果のポイントおよび分析
     財務省自治財政局(平成29年11月)
     https://www.soumu.go.jp/iken/h28_118776.html

 



自治体の合計ですが、2005年度以降、ほぼ年々基金残高は増大し、2006度末と2016年度末を比較すると、7.9兆円増加(東日本大震災分や熊本地震分を除き)していることが示されています。

 

この資料では2016年度までの数字ですが、その後も、各自治体の基金の増大は続いています。2022年10月9日の日経新聞では、「自治体の「貯金」平成以降最大に 8.6兆円に急増」という見出しの記事で、2021年度にはコロナ禍にあって、企業業績回復などによる税収、地方交付税の増加、国の税収増を受けて追加配分された赤字地方債、臨時財政対策債の償還財源(計1.5兆円)が追い風となって基金が増大していることを報じています。

 

 

いかがでしょうか。この15年間ほど、全国にみて自治体の基金残高は増大の一途をたどり、明石市も全く同じ推移を示しています。ことさら明石市だけが、基金積み増しに「成功」しているわけではないのです。基金残高が10年間で70億円(2011年度)から121億円(2021年度)に増大したと泉市長殿は満悦ですが、同程度の積み増しを行っている自治体など幾らでもあります。

 

しかし、基金の積み上げ額を増やしているからといって、某市長のようにそのことを自慢するようなおめでたい首長などほとんど存在しません。理由はいくつかありますが、基金増大は本来自慢すべきコトでも何でもないことを熟知しているからです。基金増大を自慢することは、二重に恥ずべきことなのですが、某市長殿はよっぽど財政音痴なのかも知れません。全国の首長の間で、某市長は今や嘲笑の的となっているようです。

 

自治体の基金残高増大の病理

自治体では、入ってくるお金(収入)と、使って出て行くお金(支出)の差額によって基金の残高は左右されることを前述しましたが、入ってくるお金の主たるものが住民から徴収した地方税(市であれば市税)であり、国から交付される地方交付税です。使って出て行くお金とは、福祉や教育、街づくり、環境保全など行政サービスに活用する諸経費です。

 

自治体の基金増大は、民間企業の内部留保の増大と同様の構造的問題とも言えます。というのも、民間企業において内部留保が年々増大していますが、その理由として、人件費(従業員の給与)や設備投資を抑制していることが指摘されています。企業が人件費を抑制しているので、従業員の給与が増えない、設備投資が不十分なので技術革新の波に乗り遅れ、結果として、日本経済の低迷が続く、という悪循環に見舞われているのです。

 

自治体の基金増大も同様の病理現象で、自治体が本来行うべき対住民行政サービスを十分に行っていない、あるいは必要な公共投資を十分に行っておらず将来にツケを回していることを意味し、結果として地域社会の発展を阻害している可能性があるのです。また、本来必要な所要額以上に、地方交付税自治体にばら撒かれ余ったお金が基金としてプールされているだけではないか、という厳しい指摘もあります。

 

今回は、自治体の基金についての総論的事項として、基金が積み上がっていることは、自治体が本来行うべき行政サービスを十分に行っていない、あるいは公共投資を十分に行っておらず将来にツケを回していることを示唆し、首長が自慢するような事柄ではない旨を説明しました。

 

次回は、各論的事項として、明石市基金の状況について、細部を検証します。