泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

単年度収支と基金取崩状況から見えてくる綱渡り状態の明石市財政

自治体の基金については、ふだんあまり注目されませんが、自治体の財政運営にあたっては非常に重要なパーツです。ただ、自治体の財政担当者にとっては、基金は目立たないよう、密やかにこっそり扱いたいゾーンなのです。

 

しかしながら明石市では、房穂市長が市長在任期間中に50億円を積み増したと自画自賛していることから、図らずも本来は秘め事である基金運用にスポットが当たってしまうことになりました。語るに落ちるではないですが、基金の運営状況を見ることによって、明石市の財政状況が非常に厳しい綱渡り状態にあるという実態がくっきりと浮き彫りになります。

 

 

ここで、泉房穂市長が市長に着任する前年の2010年度から、市長就任10年目にあたる2020年度までの、明石市財政に関するある数字の推移を示します。

 

2010年度 13.4億円

2011年度 -9.9億円

2012年度 4.7億円

2013年度 3.6億円

2014年度 -4.6億円

2015年度 9.8億円

2016年度 -7.2億円

2017年度 -3.3億円

2018年度 -3億円

2019年度 -2.2億円

2020年度 13.4億円

 

プラスの年がある一方で、2011年、14年、そして16~19年度は連続してマイナスが続いていることが分りますね。

 

同様に、別の事項の推移を示します。上の数値の推移と同様の傾向を示しますが、2018年度は上の表ではマイナス3億円なのに対し、下の表ではプラスで29.6億円と突出した金額となっています。

 

2010年度 14.9億円

2011年度 -1.5億円

2012年度 9.9億円

2013年度 7.2億円

2014年度 -2.7億円

2015年度 13億円

2016年度 -0.9億円

2017年度 -2.1億円

2018年度 29.6億円

2019年度 -5.0億円

2020年度 15.3億円

 

 

さて問題です。これらは何の金額の推移を表したものでしょう。答えが分る人は、かなりの財政マニアだと思われますが、正解は、前者は明石市の「単年度収支」の推移、後者は「実質単年度収支」の推移を示したものです。

 

自治体の財政指標には、「ナントカ収支」という事項がたくさんあって、わかりづらいですね。収支というのは、ある金額と別の金額の差額を示す数値のことで、当該年度の歳入決算額と歳出決算額の差額である「形式収支」、当該年度の実質収支と前年度の実質収支の差額である「単年度収支」などがありますが、深入りするのはやめておきます

 

単年度収支、基金についての基礎情報

深入りしないといいつつも、明石市の単年度収支や基金のやりくりを見る上での基礎情報について少しだけ触れておきます。

 

自治体の財政分析にあたって、一般的に最も重視されている指標は、「実質収支」という事項です。「単年度収支」や「実質単年度収支」は、「実質収支」ほど注目されることはありませんが、自治体財政の持続可能性にあたっては、「実質収支」以上に重要な項目なのです。

 

言うまでもありありませんが、自治体の財政は、入ってくるお金(収入)と、使って出て行くお金(支出)のバランスで成り立っています。「入ってくるお金」というのは、住民から集めた地方税(市税)や国・県からの補助金地方交付税交付金などがあります。使って出て行くお金とは、福祉や教育、街づくり、環境保全など行政サービスに活用する諸経費です。

 

通常は、前者と後者が一致するか前者が後者を上回る、すなわち黒字になるように財政運営が行われます。黒字になる、すなわち余り金が発生することを「剰余金が発生する」と言います。決算剰余金の使い道は、大きく分けて次の3つがあります。1つは、次年度の予算で活用するべく繰り越します。このお金と繰越金といいます。2つめは、自治体の借金を早めに返済(繰上償還)します。そして3つめが、将来に備えた貯金である基金に積立てます。

 

自治体の財政はいつも黒字になる訳ではありません。「使って出て行くお金」が「入ってくるお金」を上回り、財政赤字になることがありえます。しかし、赤字決算になると格好悪いし、オオゴトです。各自治体とも、財政状況が厳しいときでも、「形式収支」や「実質収支」の値が絶対にマイナス(赤字)にならないよう必死でやりくりします。

 

財政状況が厳しく、実質的には財政赤字になりそうなヤバい時に、「実質収支」の値をマイナスにしないため最も多用されるのが、基金(積立金)の取り崩しです。すなわち、過去に貯めておいた貯金に手を出して穴埋めするのです。財政が綱渡り状態の時に、基金の取り崩しをやっていれば、たいてい「単年度収支」はマイナスです。

 

実質収支という言葉に騙されがちですが、財源不足で実質的に赤字財政であっても、基金の取り崩しなどによって黒字が装われます。それに対し、単年度収支がマイナスであれば、将来に備えて貯めている基金に手を出すなど、綱渡り状態で財政運用が行われていることが一目瞭然です。

 

もっとも、突発的な出費によって、特定の年だけ単年度収支が赤字になることは珍しいことではなく、単年だけの単年度収支のマイナスに目くじらを立てる必要はありません。しかし、単年度収支の赤字が3年以上続いていれば、財政運営の健全性が損なわれつつあり、将来の持続可能性に黄色信号が点滅したとして深刻に捉える必要があるのです。

 

どこの自体でも、首長は、人気取りのためにバラマキをやりたくなるものですが、単年度収支の赤字が3年以上継続しているような火の車状態では、本来、バラマキは厳禁です。しかし、黄色信号を無視して放漫経営を続けると、転落の道をまっしぐらに突き進むことを意味するのです。

 

明石市の単年度収支と基金取崩の状況は?

では、明石市の状況を眺めてみましょう。

 

 

上述のとおり、明石市の単年度収支は、2011年度と14年度にマイナスとなり、さらに16~19年度は連続してマイナスが続いています。

 

一方で、基金の取崩し状況を見てみましょう。2014年度は、財源不足を補うため、積立金(財政調整基金)を3.5億円取り崩しています。また、2016年度には、財政調整基金と減債基金を合わせて4.5億円を取崩し、同様に、2017年度には5.5億円、2018年度には5億円、2019年度には8億円を取り崩して、なんとかやりくりしているのが明石市の財政の実情なのです。

 

(註)次回さらに詳しく説明しますが、基金にはいくつか種類があります。単年度収支や実質単年度収支の算出に用いるのは、財政調整基金だけです。2016年度と2017~19年度には財政調整基金と同時に減債基金も取り崩していますが、こちらは収支計算には反映されません。

 

実のところ、明石市は慢性的な赤字体質となっており、市長の趣味でバラマキを行う余力は全くないのが赤裸々な実情なのです。

 

ここまでの話で、次のような疑問をもっている方も少なくないと思います。本稿では、財源不足を補うため、基金の取崩しが継続していると書かれているけど、市長は逆に51億円積み増ししていると主張しているのではないか。どちらの言い分が正しいのか、と。

 

この点については、土地売払収入の基金積み増しと、コロナ禍による増収によって説明することが可能です。前者については、2018年度には明石市では、大久保のJT跡地をJTから購入した上で、その用地の一部を売約しました。その土地の売払で発生した費用などを充て、18年度には、財政調整基金を33.9億円積み増ししたのです。冒頭で言及した、2018年度の単年度収支と実質単年度収支の大きな差異は、これによるものです。

 

後者については、コロナ禍の2020年度、21年度については、当初予算の段階では、2019年度と同様の厳しい財政運営を予測し、2019年度と同水準の基金取崩しでやりくりせざるをえないと悲観的見通しだったのです。しかしながら、コロナ禍での感染症対策や景気対策のため、国から各自治体に莫大な額の補助金地方交付税交付金が供与さ、2021年度には企業の業績も上向き税収も予想以上に伸びたのです。このようなことから、2020年度、21年度は財政黒字となり、結果として2年間で財政調整基金を10.5億円積み増しすることができたのです。

 

なお、前回の記事でも紹介しましたが、コロナ禍における自治体の基金激増は全国的傾向でであり、明石市の特異的事情ではありません。泉市長の資料には、基金について2021度に「コロナ禍でも9億円増」と堂々とPRしていますが、特段自慢することでも何でもありません。市長は財政についての無知をわざわざ自白し、恥を晒しているだけです。

 

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ともあれ、土地売却と新型コロナの影響で、みかけ上、基金の積み増しが行われた形となっていますが、泉房穂市長のもと、深刻な財政構造は何ら変わっていません。泉市政において、財政運営上、JT跡地売却と新型コロナは「神風」だったと言えますが、市長のバラマキ体質が一層深刻化しているという点で、事態はより悪化していると言わざるをえません。