泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

財政基金などの意味を全く理解していない残念過ぎる泉房穂市長

明石市の房穂市長は、市長在任期間中に50億円を積み増したとあちらこちらで自画自賛しておられます。

 

前々回の本ブログ記事では、

  • この15年間ほど、全国にみて自治体の基金残高は増大の一途をたどり、ことさら明石市だけが、基金積み増しを実現しているわけではない
  • 基金が積み上がっていることは、自治体が本来行うべき行政サービスを十分に行っていない、あるいは公共投資を十分に行っておらず将来にツケを回していることをも意味し、首長が自慢すべき事柄ではない

ということを説明しました。

 

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

 

前回の記事では、

  • 基金の推移をみると、明石市ではここ数年、基金の取崩が持続しており、綱渡りの厳しい財政状況であることが一目瞭然である
  • JT跡地の土地売却で得た費用や、コロナ禍における国からの交付金増等に伴う剰余金を基金に積み立てたことにより、明石市ではみかけ上、基金の残高は拡大しているものの、財政危機が緩和された訳ではない

ということを解説しました。

 

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

 

ところで、泉市長殿の基金についてのツイートの中には、看過できない重大な問題発言が包含されています。今回は、泉房穂市長の発言を振り返りつつ、さらに基金について深堀していきます。

 

まずは、泉市長の2つのツイートを転載します。

 

2022年12月31日のツイートでは、「明石市では、・・・基金も50億円も積み増し、その財源で高齢者施策も可能となっている。・・・”マジック”をするつもりはなく、”市民”のための政治をしているだけだ」とつぶやいていました。

 

 

また、2022年12月7日のツイートでは、来年度の目玉予算と位置づけている『児童手当拡充(高校生世代対象、所得制限なし)』について、「財源はやりくりで対応する予定。もっとも、私の市長就任時から51億円も基金を積み足してきたので(70億円→121億円)、その取り崩しも可能という趣旨。財源は大丈夫。」と主張しています。

 



これらの市長発言について、ある程度自治体の基金に関する知識がある人であれば、「高齢者施策を持続的に実施するに足りる特定目的基金を十分積んでいるのであれば、素晴らしいことだ」と感じるかも知れません。しかし、市長が言うところの基金が、特定目的基金ではなく、財政調整基金をアテにした発言だと補足説明すると、「この市長、イカれている。よっぽど財政について知識のないダボ(阿呆)か、市民を愚弄・欺罔する悪質なデマゴーグのどちらかだろう」と衝撃を受けるに違いありません。

 

自治体の基金の種類

そもそも自治体の基金というのは、1年ごとに毎年予算を立てて使い切らないといけない、複数年度にまたがる財政運用は認めない、という「単年度主義」の原則の例外措置であり、将来に必要とされるお金をプールしておき、お金の用立てが必要になったときに機動的に活用することができる仕組みです。

 

「単年度主義」はわが国の財政の大原則であり、その大原則からの逸脱を意味する基金は、市長が勝手に恣意的に設置・運用することが許されるものではなく、条例の定めによることとされています。自治体によって、基金の種類や名称は異なりますが、実に様々な基金が設けられています。

 

明石市では現在、主要な基金として、以下のような基金が設けられています。

明石市財政基金

明石市減債基金   

明石市特別会計等財政健全化基金

明石市庁舎建設基金

明石市一般廃棄物処理施設整備基金

明石市福祉コミュニティー基金

明石市スポーツ振興基金

 

ほかにも、明石市本のまち基金条例や明石にじいろ基金条例なども存在しますが、財政規模は小さく、おまけのような位置づけのようです。

 

これら7つの基金のうち、1つめの財政基金(財政調整基金)と2つめの減債基金は、国(総務省)が全ての自治体に設置を指示している必置の基金です。それに対して、3つめから7つめまでの基金は、基金の名称に掲げられた特定の用途のため各自治体が独自に設置した基金で、国の統計上、「その他特定目的基金」にカテゴライズされています。

 

これら7つの基金について、簡単に紹介します。

 

①財政調整基金

 「自治体における年度間の財源の不均衡を調整するための基金」と定義されているものです。ある年度において、経済情勢の急激な悪化により十分な税収が確保できない、地方交付税交付金が予算を下回る額しか交付されないことなどにより、歳入不足に陥いる事態、あるいは大規模災害の発生などにより巨額の経費を要するような事態に備えて、平時からコツコツと積み立てておく自治体の貯金のことです。明石市では、「調整」という文字を抜いて「財政基金」という名称が用いられています。

 

②減債基金

 地方債の償還(市の借金の返済)を計画的に行うための資金を積み立てる目的で設けられる基金のことです。借金返済に滞らないように、一定額を減債基金として積み立てておくことを総務省が各自治体に要請しています。加古川市のように、「市債管理基金」という名称で運用している自治体もあるようです。

 

特別会計等財政健全化基金

 明石市が独自に設置したもので、特別会計等の財政の健全な運営及び累積欠損の計画的な解消を目的としたものです。1991年に設置され、市営バス運行に係る交通事業への繰出金の財源、交通事業廃止に係る清算経費の財源として活用されてきたようです。

 この基金は、国の統計上は、「その他特定目的基金」にカテゴライズされていますが、明石市では、財政基金と減債基金にこの基金を加えた3つの基金を併せて「3基金」と呼んでいます

 泉市長が日頃よく口にする「70億」とか「121億円」といった金額は、この3基金の合計金額のことを指しているようです。

 

④庁舎建設基金

 市役所新庁舎の建設費用にあてることに目的を特化して積み立てている基金です。この基金の運用については、次回の記事で取り上げますので、ご期待ください。

 

一般廃棄物処理施設整備基金

 一般廃棄物処理施設の整備、すなわち、大久保クリーンセンターの修繕工事に充てるための貯金です。

 

⑥福祉コミュニティー基金

 地域におけるボランティア福祉活動、その他高齢者等の保健福祉を積極的に推進するための事業費用に充てることを目的とした基金です。

 

⑦スポーツ振興基金

 スポーツに関する施策の推進に活用する費用を貯める基金です。

 

 

全ての基金は用途が明確に決まっている

以上、明石市の各基金について説明してきましたが、いずれの基金についても、用途が明確に定められています。「その他特定目的基金」に該当する基金だけではなく、財政基金(財政調整基金)と減債基金についても、条例で用途が明確に規定されているのです。いずれの基金についても、市長の趣味や思いつきで、定められた用途以外に基金を流用することが認められることはありません

 

ここでもう一度、泉市長殿の発言を引用しましょう。

 

明石市では、・・・基金も50億円も積み増し、その財源で高齢者施策も可能となっている。・・・”マジック”をするつもりはなく、”市民”のための政治をしているだけだ

 

(『児童手当拡充(高校生世代対象、所得制限なし)』について、)「財源はやりくりで対応する予定。もっとも、私の市長就任時から51億円も基金を積み足してきたので(70億円→121億円)、その取り崩しも可能という趣旨。財源は大丈夫。

 

何が言いたいのか、皆さんお分かりですよね。市長が積み増したと自画自賛している50億円だの51億円というのは、財政基金と減債基金特別会計等財政健全化基金の3つの基金の積み増し額の合計のようですが、いずれも年度途中において一般会計の財政調整、地方債の償還、特別会計等の財政調整に用途が限定されており、予算編成段階で高齢者施策や児童手当拡充に充当できるものではないのです。

 

仮に、福祉コミュニティー基金に十分な積み増しがあり、当該資金を高齢者施策に充てるというのであれば筋も通っており、理解できることです。ただ、いずれにしても、基金は貯めている範囲の資金しか活用できないので、恒久的な事業に用いることは考えられません。基金は、単年度限りかせいぜい数年程度の短期間の事業に充当すべきものなのです。

 

したがって、児童手当拡充の財源に基金を充てるから大丈夫というあまりにも愚かな発言は、首長としてあるまじき妄言です。

 

市長が本心としてこんなことを言っているのであれば、財政についての無知も甚だしく、市政を運用する能力を著しく欠損していることが伺え、一刻も早く職を辞すべきです。11年も市長をやっているので、おそらく誤った主張であることを正解した上で、無知な市民を愚弄し、騙すための口からの出任せなのでしょう。後者であれば、さらに悪質な詐欺師だと言わざるを得ませんね。

 

 

(参考1)関連条例を引用しますが、3基金について、高齢者施策や児童手当拡充の財源に充てるのは、どんなに屁理屈をたてても難しそうです ┐(´~`;)┌

 

明石市財政基金条例(抄)

(設置)

第1条 災害復旧その他財源の不足を生じたときの財源を積み立て、市財政の健全な運営に資するため、財政基金(以下「基金」という。)を設置する。

(処分)

第5条 基金は、次の各号のいずれかに掲げる場合に限り、これを処分することができる。

(1) 経済事情の著しい変動等により財源が著しく不足する場合において当該不足額をうめるための財源に充てるとき。

(2) 災害により生じた経費の財源又は災害により生じた減収をうめるための財源に充てるとき。

(3) 緊急に実施することが必要となつた大規模な土木その他の建設事業の経費その他必要やむを得ない理由により生じた経費の財源に充てるとき。

(4) 長期にわたる財源の育成のためにする財産の取得等のための経費の財源に充てるとき。

 

明石市減債基金条例(抄)

(設置)

第1条 市債の償還に必要な財源を確保し、将来にわたる市財政の健全な運営に資するため、減債基金(以下「基金」という。)を設置する。

(処分)

第5条 基金は、次の各号のいずれかに該当する場合に限り、これを処分することができる。

(1) 経済事情の変動等により財源が不足する場合において、市債の償還の財源に充てるとき。

(2) 償還期間の満了に伴う市債の償還額が他の年度に比して多額となる年度において市債の償還の財源に充てるとき。

(3) 償還期限を繰り上げて行う市債の償還の財源に充てるとき。

(4) 市債のうち、地方税の減収補てん又は財源対策のため発行を許可されたものの償還の財源に充てるとき。

 

明石市特別会計等財政健全化基金条例(抄)

(設置)

第1条 特別会計等の財政の健全な運営及び累積欠損の計画的な解消に資するため、特別会計等財政健全化基金(以下「基金」という。)を設置する。

(処分)

第5条 基金は、その設置の目的を達成するために必要があると認める場合に限り、予算に計上して処分することができる。

 

 

(参考2)「特別会計等財政健全化基金」については、明石市の各種資料に目を通しても、詳細な記載がほとんど見あたりませんが、明石市議会の平成30年9月議会9月14日の宮坂祐太議員の質問と、総務局長による答弁が参考になります。ともあれ、このときの宮坂議員の質疑は、明石市における基金についての考え方を知る上で非常に興味深いものです。基金について関心のある方は、議会会議録に目を通されることをお勧めします。