泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

庁舎建設基金に積み立てるべき財源を個別給付に転用した市長の愚

前回のブログ記事では、

明石市では、市役所の建て替えのための所要額を130億円程度と見積もり、その費用の25%にあたる32億円を「庁舎建設基金」として貯金する方針であったこと、

しかしながら、市長の一存でその方針が反故にされ、基金の貯金が当初方針の半分の16億円で打ち止めされ転用されてしまったこと

を紹介しました。

 

今回の記事では前回に引き続き、庁舎建設基金に積み立てる予定だったお金を転用してしまったことの問題点を指摘します。

 

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

庁舎建設を巡る130億、32億、16億といった数字について

130億だの32億、16億円と言われてもイメージがわかないかも知れませんし、何が問題なのかピンと来ないかもですね。市役所の建設は、個人が住宅ローンを活用して家を買うのと同じことだとして、前回の記事では、3000万円で自宅を購入する計画を例に挙げて、次のように指摘しました。

 

3000万円でマイホームを購入したい、頭金として25%の750万円を貯めようとパートナーと相談していました。その半額の375万円が溜まり数年後にあと375万円溜まった時点で家を買おうと具体的検討を始めていた矢先に、パートナーに無断で、375万円で趣味のスポーツカーを別途ローン購入してしまった。車購入の例が良くなければ、パートナーに内緒で子育てNPOあるいはウクライナ支援募金に375万円を寄付したとしましょう。寄付行為を公共善として評価する人もいるかも知れませんが、その事実を後で知ったパートナーが、うちにはそんな金銭的余裕は無いとブチ切れるのは必至ではないでしょうか。

 

車購入に転用、あるいは子育てNPOウクライナ支援募金に寄付する、というたとえが適切かどうかは微妙ではありますが、130億や32億、16億円といった金額の規模感というか各数値の関係をイメージする上で参考になると思います。

 

庁舎建設基金については、平成18年度に創設され、平成27年度末までに累計16億円が積み立てられてきました。明石市の財政部局や新庁舎整備部局においては、28年度から31年度にかけて毎年4億円づつ積み立てを行えば、市政100周年にあたる平成31(2019)年度には32億円が積み上がり、工事に着手可能だろう、という見通しだったようです。

 

 

しかしながら、市長の方針転換の命を受け、当初基金に積むことを予定していた残り16億円の代替財源の確保方策等の検討のために、当局はかなりの行政コストを割くことを余儀なくされ、結果として、新庁舎の着工時期も大幅に遅延することになってしまったのです。

 

中長期的な財源のアテがない状態での保育料助成事業の開始

では、当初基金で積むことを予定していた残り16億円はどこに行ってしまったのでしょうか。この16億円は、市長の目玉施策である「第2子以降の保育料の完全無料化」に要する財源として流用されてしまいました。

 

平成28年3月議会では28年度予算案が審議されましたが、2月26日の定例会において、尾倉あき子議員が、「第2子以降の保育料の完全無料化」の財源について質問しています。この質問に対し、泉市長は要旨次のように答弁しました。

 

28年度は9月スタートで、所要額は4億円。1年間通しで12か月間事業を実施すると7億円が必要となる。その内訳として、4億円は、元々庁舎建設基金に積み立てる予定であった財源を充てる、そして残り2~3億円は、人件費の削減(地域手当の削減)など財政健全化の取り組みにより捻出する。

 

泉市長は、このように「第2子以降の保育料の完全無料化」の財源について議会で語っていますが、次のような疑問が湧きませんか? 

 

「第2子以降の保育料の完全無料化」は時限的なものではなく、いちおう恒久的な事業と位置付けているものだよね。でも、元々庁舎建設基金に積み立てる予定であった財源はトータルで16億円なので、毎年4億円を活用するとして、16÷4で4年分しか捻出できないのではないか。そうすると、5年目以降は、全く財源のあてがないまま、無鉄砲に突っ走っているってこと??

 

そうなんですよね。中長期的な見通しとして、平成28(2016)年度、29(2017)年度、30(2018)年度、令和元(2019)年度の4年間は、元々庁舎建設基金に積み立てる予定としていた計16億円を、毎年4億円づつ、「第2子以降の保育料の完全無料化」事業のために充てることが可能です。しかしながら、20年度以降の財源のアテが全く無いまま、見切り発車で事業が開始されてしまったのです。

 

 

基金財源をアテにして個別給付事業を行うのはナンセンス

「第2子以降の保育料の無料化」を実施するにあたり必要は経費は、元々庁舎建設基金に積み立てる予定であった財源を充てる旨を市長が平成28年2月に答弁していますが、この財源を活用できるのは令和元年(2019年)度までが限度なのです。2019年度で転用可能なお金は尽きてしまうのです。令和3年(2020年)度以降も当該事業が継続しているということは、本来実施すべき他の事業が割を食って予算を毎年毎年4億円分カットされ、やりくりしている可能性が否定できません。

 

もっとも、2020年度以降は、コロナ禍において、国からの支出金等の増額や税収増に伴い、多くの自治体では財政的には余裕が生じているようです。したがって、今現時点では、「第2子以降の保育料の無料化」の予算確保にそこまで苦慮していないものと思われます。しかしながら、今後、財政状況が悪化した際には、保育料助成のような個別給付の事業が財政運営の重荷となることは避けられないでしょう。

 

保育料助成のようなバラマキは、市民から喝采を浴びやすく、選挙対策として首長が好む施策ですが、政策効果は明確でない上に、財源確保の安定性という観点からは危険極まりないシロモノなのです。

 

そもそも基金は貯めている範囲の資金しか活用できないので、基金の財源をあてにして恒久的・継続的な給付事業に用いることはナンセンスに過ぎます。基金は、単年度限りかせいぜい数年程度の短期間の個別給付に充当することがありえても、どっちみち使い切るとそれでおしまいです。単なる散財であって、市民には何も残りません。

 

それに対し、基金で積み立てた貯金を市庁舎のような資産(ストック)の形成にあてると、数十年間にわたって、市庁舎が活用されている限り、市民の共有財産として活かされることになるのです。

 

新庁舎建設のために基金に積み立てる予定であった財源を、「第2子以降の保育料の完全無料化」の事業にあてるという泉房穂市長の判断が、いかに浅薄かつ近視眼的で、市民のためにならない市民に違背した愚行であるかがお分かりいただけたでしょうか。

 

前回も述べたとおり、庁舎建設基金への積み上げをストップしたことに、市議会では批判のオンパレードです。泉市長殿は、市議会は既得権益のかたまりで自分に対して批判ばかりしているだの、市議連中は市民の敵だといっての罵ってます。けれども、市議たちが立腹しているのは、本稿で述べてきた問題点を熟知されているからであって、立腹するのは無理からぬことなのです。市民の敵は市長本人にほかなりません。

 

おわりに

本ブログでは今回まで5回にわたって、明石市基金運用に関する話題を取り上げてきました。ちょっとマニアックな議論になってしまったような気もしますが、泉市長の基金をめぐる対応や、基金についてツイートなどで主張していることが、常軌を逸した軽挙妄動であることがご理解いただけたと思います。 

 

先日の記事でも書きましたが、自治体の基金については、ふだんあまり注目されませんが、自治体の財政運営にあたって非常に重要な要素です。ただ、自治体の財政担当者にとっては、基金は目立たないよう、密やかにこっそり扱いたい秘技なのです。

 

しかしながら、泉房穂市長が在任期間中に50億円を積み増したと自画自賛したり、さらには基金を高齢者施策や児童手当拡充の財源に充てることができるといった、トンデモないデタラメな主張をしていることから、図らずも本来は秘め事である基金運用にスポットが当たってしまうことになってしまったのです。

 

そして、本ブログで解説してきた通り、基金を巡る泉市長の発言がいずれも荒唐無稽な妄言のたぐいであることが白日のもとに晒されてしまいました。まさに墓穴をほったとした言いようがないですね。