泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

幻の「下水道施設のネットワーク化事業」と泉房穂の「嘘六百億」(その5)

これまで本ブログでは、下水道事業・浸水対策を巡る泉房穂市長の「嘘六百億」について、4回にわたって連載してきました。今回は、シリーズ5回目となります。

 

ここでいう「嘘八百」ならぬ「嘘六百億」というのは、泉市長が講演会でよく使用している次の図の嘘を指摘して命名したものです。

 

泉市長の主張は、要旨次のような内容です。

・100年に1度のゲリラ豪雨で、市内の10軒ほどの民家が床上浸水しかねないので、600億円をかけて市内全域の下水道管をすべて太いものに変更する、という計画があった。
・しかし、整備計画を見直し、ハード整備中心の対策からソフト面も組み合わせた総合対策へと変更することにより、150億円に圧縮した。
・下水道事業の見直しで捻出した450億円は、子育て支援や地域福祉事業に回してやりくりした。

 

この記載は、泉房穂市長が今世紀最大の名著と自画自賛する、新刊本『社会の変え方』にも、堂々と明記されています。

 

しかしながら、これらの主張は、すべからく嘘っぱちです。よくもまあ堂々と、このような嘘をつけるものだと、感心してしまいます。過去のブログ記事で解説してきましたが、真相は以下のとおりです。詳細は、過去記事をお読みください。

(1)そもそも、100年に一度のゲリラ豪雨による床上浸水に備え、市内全域の下水道管を太い管に交換する「市内全域ネットワーク化」なる600億円の計画などもとより明石市には存在せず、泉市長が捏造した架空のフィクションに過ぎません。
(2)明石市は水害に対して極めて脆弱であり、従来からちょっとした集中豪雨でも各地で浸水被害が発生しており、100年に一度の豪雨が発生すると、被害はたかだか10軒ほどの床上浸水でおさまらず多数の死者も懸念されます。
(3)ハード整備中心の対策からソフト面も組み合わせた総合浸水対策は、泉市長着任前の前市長時代に策定された考え方で、これを自身の功績のように主張するのは手柄の横取りです。
(4)下水道事業費を600億円から150億円に削減したなどという虚偽のでっち上げにここまで固執するのは、泉市長の在任中に、明石市の市債残高(借金)が200億円以上増大したという不都合な真実を隠蔽しカモフラージュするためなのです。

 

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さて、事情通の人であれば、冒頭の泉市長のスライドを見て、「そういやあ、以前、下水路施設のネットワーク化事業なる構想があったよな。かつて実在したネットワーク化事業の中止のことを泉市長が言及しているのであれば、まんざら嘘じゃないのでは」という受け止めをされるかも知れません。

 

確かに、かつて明石市の下水道部局において「下水道施設のネットワーク化事業」という構想が存在したようです。しかし、構想として実在したこの事業は、泉首長が主張する「100年に一度のゲリラ豪雨による床上浸水に備え、市内全域の下水道管を太い管に交換する」というものとは内容が全く異なっています

 

同じく「ネットワーク化」という言葉を用いているものの、かつて実在したネットワーク化事業と、泉市長が市民を欺くために捏造した架空の「市内全域ネットワーク化」なるものは、似て非なるものなのです。だいいち、かつて実在したネットワーク事業は、「事業期間8年 事業費は約130億円」という構想であり、事業規模や予算額からして「20年間で、総額600億円」(泉房穂の嘘六百億)という数値とは根本的に食い違っています。

 

過去に実在した構想の事業名を部分引用した「ネットワーク化」の用語と、「あかし下水道計画ガイド」にたまたま記載のある「600億円」という数字を、全く別の文脈で継ぎはぎして、あたかも実在する計画であるかのようなストーリーを巧妙に捏造する泉房穂市長殿は、当代随一の詐欺師というほかありません。

 

今回は、かつて実在した明石市の「下水道施設のネットワーク化事業」構想とはどのような内容のもので、いかなる経緯で構想が練られ、どのような顛末をたどったのかを解説し、またもやペテンぶりが暴露されてしまった泉市長を憐れみたいと思います。

 

「下水道施設のネットワーク化事業」構想とは?

かつて実在した「下水道施設のネットワーク化事業」構想が、明石市議会で具体的に報告されたのは、平成19年6月26日の建設企業常任委員会においてです。この事業は、市内4箇所の浄化センター(下水処理場)を、管径1.1~1.8メートルの比較的太い管(連絡管)で連結するというプランです。新設する連絡管の総延長距離は約12キロメートル、事業期間は平成21年度からの8年間で、総事業費は約130億円というものでした。

 

これだけの説明では、さてはて何のことだか全く意味不明かも知れませんが、少なくとも、泉市長が言うところの「100年に一度のゲリラ豪雨による床上浸水に備え、市内全域の下水道管を太い管に交換する「市内全域ネットワーク化」」なるものとは全く次元が異なる事業であることは理解いただけると思います。

 

下水処理場を相互に連結管で結ぶことに、何の意味があるのか、こんなことをやっている自治体は他に例があるのか、といぶかしく思う人もいるかも知れませんね。

 

実は、下水処理場を連絡管で連結するネットワーク化事業は、神戸市や西宮市などの前例があります。神戸市は、平成8年から15年かけて、市内5箇所の処理場を総延長距離約33.3kmに及ぶ大深度の連結管で連結するという事業を実施したのです。

 

神戸市がこの事業を実施した背景には、阪神・淡路大震災の教訓があります。大震災では、東灘処理場が大きな被害を受け、3か月にわたって機能停止をしてしまったのです。その反省として、地震などの被害で、どこかの処理場が機能停止をした場合でも、その区域の下水を、連結管を通じて他の施設に送水して処理する、という構想が練られていったのです。

 

危機管理としての用途だけでなく、平時においても、各処理場において、下水量と処理能力に不整合が生じた場合、各施設間で下水を融通することで安定的な処理が可能となる、処理機能の集約化による効率化を図ることができるのではないか。このような政策効果を期待して、神戸市でネットワーク化事業が実施されました。

 

明石市でのネットワーク化検討の経緯

明石市でも、神戸市でのネットワーク化事業に触発される形で、下水道部局の内部において、同様のネットワーク化事業が構想されていきました。明石市で、このネットワーク化事業が構想された理由の1つは、災害時の危機管理体制の構築のためですが、実はもう一つ、船上浄化センターの再構築の検討とも連動していました。

 

船上浄化センターは昭和46年に運転を開始しましたが、処理場の構造体の耐用期間が約50年とされてきた中で、平成10年頃から、船上センターの将来構想の検討が本格化しました。全面リニューアルをする、あるいは高度処理システムを導入するとすれば、現在の処理施設では用地が足りない。だけど周辺の土地の買取は困難。であれば、沖出し(埋め立て)により確保しよう、というアイデアが出たようです。しかし、漁協などの反発が強く、すぐさま頓挫してしまいました。

 

そのような中、救世主のように現れたのが、処理施設間のネットワーク化のアイデアです。船上センターの再整備の手法として、建て替え用地を確保することなく、工事期間中は他のセンターに送水するなどの対応により、現有敷地で円滑な再整備が可能となる。また、将来的には、他の浄化センターやポンプ場の施設再編可能となる。このような政策効果を期待して、下水道部局では、機関ネットワーク化整備担当課長を配置するなど前のめりでネットワーク化事業の着手に向けた検討を進めていきました。

 

平成21年の延期、そして平成30年の中止判断

当初は平成21年度の着工を目指していましたが、着工直前になって、事業開始を10年間延期する、という判断がなされました。というのも、平成16年以降集中豪雨で浸水被害が多発する中で、ネットワーク化事業よりも、当面は雨水管の布設など浸水対策に傾注する、という判断がなされたからです。

 

その後、民主党政権下で公共事業予算の削減方針が鮮明となり、将来的に国庫補助金がさらに減額される懸念が高まったことなどから、下水道部局では、今後の事業のあり方について再検討が行われたようです。

 

その結果、従来は耐用年数50年とされてきた土木構造物が、下水処理技術の進展により70年以上延命できる見込みであることや、今後処理水量の大幅減が想定されることなどから、ネットワーク化事業を実施しなくても、現有敷地での再整備が可能であることが明らかとなったのです。

 

他方で、ネットワーク化事業については、今後処理水量の大幅減が想定されることなどから、管径の縮小などの見直しも検討されたようです。しかしながら、近年の材料費や人件費の高騰に伴い、平成31年度着工すれば、事業費は約150億円に増大することが判明しました。

 

このような検討結果を踏まえ、平成30年3月7日の市議会の建設企業常任委員会において、「ネットワーク化事業に着手しない」という方針が示されました。都市局次長は、「ネットワーク化については、少なくとも今後20年間は着手しないという判断をこのたびしたところでございます」と答弁しています。

 

少なくとも20年間は着手しないと言いつつ、事実上の完全撤退(中止)の宣言であると見なすのが妥当でしょう。かくして、平成10年頃から、下水道部局において20年間にわたって温められてきたネットワーク化事業は、幻の構想として完全に潰えてしまったのです。

 

おわりに

明石市で幻の「下水道施設のネットワーク化事業」が提唱された初期の頃(平成17~19年頃)は、市議会でも、この事業に対し税金の無駄遣いである、他にやるべきことがあるのではないか、と厳しい意見が相次いでいました。しかし、下水道部局が粘り強く説明を続ける中で、当該事業に対する肯定的意見や期待感が強まっていきました。

 

市が平成21年に10年間の延期を決めたとき、また、平成30年に中止宣言がなされたときには、議員や船上浄化センターの周辺住民の間では、その決定に対して強い批判や落胆の声も聞かれました。船上浄化センターの再整備等の方針が、二転三転どころか三転四転してきたことに、関係者が立腹するのも無理からぬことです。

 

ただ、社会経済情勢の変化や、費用対効果などを冷静に検証すれば、「下水道施設のネットワーク化事業」に着手しない、という市の判断は、合理的なものであったと評価すべきと考えます。この点においては、平成30年の時点の泉市長の判断は適正だったとみなせます。とはいえ、すでに前市長時代の平成21年時点で、本事業はいったん凍結の判断がなされており、泉市長は、前市長の判断を単に踏襲したに過ぎず、事業中止は泉市長の「手柄」と言えるものではありません

 

それに、「下水道施設のネットワーク化事業」に着手しない、という泉市長の判断は適正だったとしても、「ネットワーク化」という単語を転用・悪用して、架空の「600億円の市内全域ネットワーク化」(嘘六百億)なるものを捏造し、市民を欺いてきた泉房穂市長の悪質極まりない愚行・蛮行は言語道断です。それにしても、もたもや巧妙なイカサマが暴露されてしまったみじめな泉市長が哀れで不憫に思えてきます。