泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

10年計画の達成率は半分以下 老朽化が進む危険な明石市の下水道インフラ  泉房穂の「嘘六百億」(その6)

泉房穂明石市長は2022年11月2日に、日経新聞のインタビューで、「手厚い子育て支援事業の莫大な予算をどう捻出したのですか。」という質問の回答の中で、次のように述べています。

下水道の整備計画も見直し、ゲリラ豪雨対策にかかる費用を600億円から150億円に減らした。市内全ての下水道管を太くせず、リスクのあるエリアに限って重点対策を施した。

 

本ブログでは、泉市長が堂々と述べている「市内全ての下水道管を太く」する整備計画など明石市には未だかつて実在せず、泉市政下において市債(借金)が200億円以上増大している不都合な真実を隠蔽するため、泉市長が捏造したフィクションに過ぎないという「嘘八百」ならぬ「嘘六百億」について、5回にわたって連載してきました。

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

 

ところで、泉市長は、「嘘六百億」という架空の下水道事業費削減の「手柄」を自画自賛する一方で、インフラ整備(社会資本の公共投資)について次のように語っています。

明石市としては、インフラの”補修”や”改修”には予算付けもしており、代替措置で対応可能な”更なる投資”を抑制しただけ。

 

明石市は「インフラ整備」にも計画的に対応しており、アンチの方々(一部市議を含む)の言っていることは、一種の”思い込み”と思われます。

 

前者は、2022年6月10日に、「hide」氏の意味不明のつぶやきに対し、泉房穂市長がリプしたものです。後者は、「今年から明石に住んでるんだけど…インフラ不備は全く感じられない」と述べる「由乃」氏のツイートに対し、泉市長が2022年9月30日にリプしたものです。

 

これらの記載を読むと、頭が混乱してくる方が多くいらっしゃると思います。泉市長は、方や、下水道の整備計画を見直して事業費を600億円から150億円に圧縮したと誇らしげに述べつつ、別の場面では、インフラ整備には計画的に対応していると主張。他方で、このブログでは、そもそも600億円計画など実在せず、泉市長が捏造した架空のフィクションだと批判されている。「整備計画」とか「計画的」といったワードが頻繁に登場するけど、一体全体、真実はどこにあるのかーーー。

 

読者の皆さんは、きっとこのような疑問を感じられていることでしょう。そして、次のような質問が頭をよぎるのではないでしょうか。そもそも明石市には、下水道の整備計画なるものが存在するのか否か。整備計画が存在するのであれば、そこには何が書かれていて、その計画に沿って順調に整備が進められているのかーーー、と。

 

この問に対する明快な回答は以下のとおりです。

・本ブログで何度も述べてきたとおり、泉市長が主張するような「市内全ての下水道管を太く」する事業費600億円の行政計画など実在するものではなく、泉市長が捏造した架空のフィクションです。

・一方で、2018年から概ね10年間に約284億円を投資するという下水道の具体の経営戦略が平成30年12月に策定されています。

・しかしながら、2018年度から2021年度までの4年間の投資額は総額56億円程度(10年計画の19.8%)に留まっています(本来であれば、2021年度までの段階で、10年計画で定めた事業の4割を達成しておく必要があります)

・要するに、本来やっておくべき公共投資を先送りして、市民を生命・安全を棄損し、将来にツケを回しているだけの泉市政の実態が再確認できます。

このあと、下水道におけるインフラ更新の必要性や、経営戦略が策定された背景などについて解説した上で、経営戦略における10年計画の進捗がかんばしくない実態について検証していきます。

下水道におけるインフラ更新の必要性

わが国における下水道普及率は、地域差が大きいですが、全国平均で令和2年度末には80.1%となりました。全国で8割の人口をカバーするべく、これまでに津々浦々に地中に張り巡らされた下水道管の総延長距離は、令和2年度末時点で約49万キロメートルに及びます。この距離は地球12周分に相当します。

 

下水道管は、ひとたび設置されると、そのまま永久に使用できるものではありません。定期的なメンテナンスと更新が不可欠なものです。というのも、管内でたまった油分や汚物が付着したまま徐々に肥大化し管を閉塞させたり、硫化水素の発生によってコンクリートの腐食が進行するからです。

 

下水道管の耐用年数は、管の材質、接合部の構造、管径、それぞれの地域の土壌や水の成分、路上の交通から受ける加重、下水の性状などによって左右されますが、一般的には50年とされています。

 

わが国では、昭和40年ごろから下水道管の布設が本格化し、平成9年にピークを迎えるまで、右肩あがりで整備が進みました。布設時期を考えると、布設後50年を経過する下水管が急増することが確実です。現時点では布設後50年を経過する下水管は、約2.5万km(総延長の5%)ですが、10年後は8.2万km(17%)、20年後は19万km(39%)と急速に増加する見込みです。

 

老朽化した下水道管に起因するトラブルの1つが、道路陥没事故です。陥没事故は、埋設後年月が経過した老朽管が、道路からの負荷などにより破損し、そこから土砂が混ざった地下水が流入することで、道路の舗装面下に空洞ができることによって生じます。規模の大きなものから小さいものまで含め、全国で毎年3000~4000件ほど発生しています。

 

下水管の標準耐用年数は約50年とされていますが、この耐用年数を待つことなく、布設後30年を経過すると陥没事故のリスクが増大することが知られています。このため、適正な保全予防・ストックマネジメント(定期的・計画的な定期的な点検や修繕、そして老朽化が進行している場合には管の更生等)が必須不可欠なのです。

 

このことは、泉房穂市長が高く評価しているタブロイド紙日刊ゲンダイの記事においても取り上げられ、警鐘が鳴らされています。しばしば、日刊ゲンダイの記事を引用する泉市長が、この記事をスルーしているのが不思議なぐらいです。

www.nikkan-gendai.com

 

下水道のマンホール蓋は、全国で約1,500万基設置されています。マンホール蓋は、重量負荷がかからない状態では耐用年数は約30年ですが、重量の大きいトラックが行きかう車道では劣化が早く、耐用年数は約15年です。

 

マンホール蓋に関連するトラブルしては、蓋と周辺舗装との段差による事故、蓋外れ、豪雨時の内発発生による蓋の飛散、蓋の破損・腐食などがあります。



中国の例ですが、老朽化したマンホール蓋の上に幼児が乗ったところ、蓋が割れて下に落下したハプニングが映像に収められています(写真の出典は2019年8月6日のテレビ朝日のニュース映像です)。わが国では、平成10年9月の高知豪雨において、冠水道路上の蓋の空いたマンホールに2人が吸い込まれ死亡するという痛ましい事件も発生しています。

 

設置後30年を経過したマンホール蓋は、全国に約300基あるとされていますが、地域住民の安全の確保のためには、適正な維持管理が不可避です。

 

下水処理場やポンプ施設については、建屋や沈殿池などコンクリートの構造体は、耐用年数は50年とされています。ただし、機械や電気設備は15年~20年程度で寿命になるので、劣化状況に応じて修繕や設備更新が必要となります。

 

下水道の極めて厳しい経営環境

かつて下水道事業は

  • 下水道普及地域が拡大すると、下水道使用料が増収するので経営が安定する、
  • 下水道の採算が厳しくても、一般会計による支援(繰入、補助金)に依存できる、
  • インフラ整備費用は、国からの有り余る補助金をアテにできる、

という安易な発想で、イケイケどんどんで整備が進められていきました。

 

しかし、今では、

  • 節水意識の高まりや人口減少により、下水道使用料の減収が進行し、今後ますます下水道経営の悪化が懸念される
  • 自治体における財政状況の厳しさが増し、一般会計から下水道への支援が期待できなくなっている、
  • 国の財政状況も危機的状況にあり、インフラ整備の国庫補助も先細りが憂慮される、

という深刻な事態に直面しています。

 

下水道経営が厳しさを増す中で、人件費比率を切り詰めるため、下水道の技術系職員が削減され、ノウハウの喪失・技術力の低下も憂慮されています。

 

他方で、上述のとおり、下水道事業が整備されてから年月の経過ともに各種施設設備の老朽化が進行する中で、市民の安全を確保するためには、適正な維持管理や改築更新のためのインフラ整備を着実に継続することが求められています。

 

このように、下水道事業を巡っては、全国的に三重苦・四重苦の極めて厳しい経営環境に直面する中で、総務省では平成28年1月、各自治体に対し、将来にわたって安定的に下水道事業を継続していくための中長期的な経営戦略(中長期収支見通し)を策定し、公開するよう要請しました。

 

明石市の下水道経営戦略

総務省からの要請を踏まえ、明石市においても平成28年12月に「明石市公共下水道事業長期収支見通し(経営戦略)(2018年度~2027年度)」が策定され、市議会の建設企業常任委員会において報告されました。

https://www.city.akashi.lg.jp/gesuidou/g_soumu_ka/shise/gyose/keikaku/keieisenryaku.html

 

この経営戦略は、次のような「経営の基本方針」が掲げられています。

持続可能な下水道の構築に向けて、以下の方針に基づき経営を行っていきます。

①計画的・重点的な改築更新を行い投資の平準化と施設の延命化を図り、下水道機能を安定的かつ継続的に維持すること。

②市民生活に影響を与えないよう良質で安定したサービスを提供すること。

③維持管理の効率化や企業債の削減を図り経営基盤を強化すること。

 

 

経営戦略では、このような基本方針に基づいて、投資・財政計画等が示されていますが、インフラ整備(建築改良費)を巡っては、次のように説明されています。

 

① 投資・財政計画のうち投資ついての説明

 次の事業を行うため、今後概ね10年間に約284億円の投資を予定しています。

ア 管渠(汚水管)整備事業

 下水道計画区域内における汚水管の未普及地域の整備促進を図るため、汚水管布設工事などに約19億円を見込みます。

イ 雨水整備事業

 浸水地域を重点とした雨水管の整備を図るため、雨水管布設工事として約33億円を見込みます。

ウ 老朽管渠改築事業

 腐食や老朽化した管渠について改築を行い管渠施設の機能保持を図るため、老朽管の布設替工事や管更生工事として約35億円を見込みます。

エ 浄化センター・ポンプ場整備事業

 環境保全対策と省力化の向上を図りながら、施設の老朽化に伴う適正な改築・更新を行うため、約197億円を見込みます。

 

若干補足しますと、明石市では、平成29年度末には下水道普及率が99.5%に達していますが、ごく一部残っている未普及地域の汚水管の整備を行うのが、「ア 管渠(汚水管)整備事業」です。

下水は、汚水と雨水とに大別されますが、下水道には、両者を一本の管で流す合流式と、別々の管で流す分流式とがあります。前者の方式の区域を中心に、豪雨時の浸水被害を防止するために雨水管を新設するのが「イ 雨水整備事業」です。

上述の通り、腐食や老朽化した下水管やマンホール蓋については、機能維持や安全確保のため、布設替工事や更生工事が不可欠です。これらの事業が「ウ 老朽管渠改築事業」です。

下水処理場(浄化センタ)およびポンプ場の改築や、機械・電気設備の更新工事を実施するのが「エ 浄化センター・ポンプ場整備事業」です。

 

2018年度から10か年の計画を示した「明石市公共下水道事業長期収支見通し(経営戦略)」が策定されてからまもなく6年が経過します。現時点で明確に決算が示されているのは、令和3年度末までの4年間です。「今後概ね10年間に約284億円の投資を行う」ことが謳われていましたが、284億円の4割にあたる114億円がこの4年間に投入されてきたでしょうか。果たしてこれまでに実際、どの程度事業が進捗しているのかを見てみましょう。

 

期間10年間の経営戦略の進捗状況

平成28年度に下水道事業が企業会計に移行してからは、「主要施策の成果報告書」などの決算関連資料において、下水道事業に関する財務情報が記載されていませんが、ホームページ上からは以下の資料を通じ、下水道事業の状況を把握することが可能です。

・監査委員会による「明石市公営企業会計決算審査意見書」

・各年度の「事務事業点検シート」

・各年度の「当初予算事業説明シート」

 

 

これらの資料から、下水道事業おける「建築改良費」の予算科目の数字を拾うことで、下水道のインフラ整備(投資)の状況を把握することができます。建築改良費は、1)管渠整備費、2)ポンプ場整備費、3)処理場整備費、4)固定資産購入費の4つに区分されています。

 

平成30年度から令和3年度までの4年間における合計額をみると、建設改良費全体では56.35億円、管渠整備費は16.69億円、ポンプ場整備費は5.55億円、処理場整備費は33.94億円となります。

 

さて、これらのうち、「1)管渠整備費」は、経営戦略における「ア 管渠(汚水管)整備事業」「イ 雨水整備事業」「ウ 老朽管渠改築事業」の3つの合計の金額です。

 

また、経営戦略における「エ 浄化センター・ポンプ場整備事業」は、「建設改良費」における「2)ポンプ場整備費」と「3)処理場整備費」を包含したものです。

 

なお、固定資産購入費は、車両や工具、備品などの購入費用ですが、各年金額はせいぜい数百万円程度です。

 

経営戦略では、2018年度(平成30年度)から2027年度(令和9年度)までの10年間に、「ア 管渠(汚水管)整備事業」は約19億円、「イ 雨水整備事業」は約33億円、「ウ 老朽管渠改築事業」は約35億円という見込みが示されています。そうすると、「ア 管渠(汚水管)整備事業」「イ 雨水整備事業」「ウ 老朽管渠改築事業」の3つの合計である「1)管渠整備費」は10年間で約87億円が計画されていたことになります。

 

では、実際には平成30年度からの4年間で、87億円のうちの4割にあたる35億円程度が投入されたのでしょうか。「1)管渠整備費」の事業実績は上述のとおり、16.69億円に留まっており、87億円という計画の19.2%の進捗に過ぎません

 

他方で、「エ 浄化センター・ポンプ場整備事業」については、2018年度(平成30年度)から2027年度(令和9年度)までの10年間に約197億円の事業を実施する計画となっていましたが、平成30年度からの4年間で、その4割にあたる79億円程度が投入されたのでしょうか。

 

「建設改良費」における「2)ポンプ場整備費」と「3)処理場整備費」の4年間の合計は、それぞれ5.55億円、33.94億円、両方合わせて39.94億円ですので、「エ 浄化センター・ポンプ場整備事業」について10年間で約197億円の計画の20%の進捗に過ぎません

 

 

そもそも経営戦略で設定された10年計画値は、現実を無視した理想値を掲げたものではなく、厳しい経営環境の中もあって、持続的な下水道機能を保持し、市民生活に影響を与えないよう良質で安定したサービスを提供するために必要不可欠な現実的な数値なのです。

 

本来は、良質で安定したサービスの提供のためには、平成30年度からの4年間において、10年計画のうちの4割を投資しておく必要があります。しかしながら現実には、その半分以下の事業しか実施されていないのです。

 

ちなみに、令和4年度予算では、下水道の建設改良費として16.41億円が確保されています。通常、公共事業は当該年度に全額執行されることはなく、次年度に繰越が発生するものです。仮に、令和4年度予算の建設改良費が全額執行されたとしても、平成30年度からの5年間で、10年計画のうちの25%の投資水準に留まり、インフラ整備の遅滞傾向は持続しています。

 

このような状況が意味することは、明石市においては、下水道管やマンホール、下水処理場など下水道関連設備の老朽化が進行する中で、市民の安全を確保するために本来必要であるインフラ投資の実に2分の1が先送りされており、市内各所で下水道関連のトラブル発生の危険度が著しく高まっているということです。また、豪雨災害による浸水被害に備えた雨水管整備も遅延しており、人的被害も懸念されます。

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本記事の冒頭で、「今年から明石に住んでるんだけど…インフラ不備は全く感じられない」と述べる「由乃」氏のツイートを引用しました。「由乃」氏は、都市開発ゲームのアナロジーで捉えておられるようですが、市民の生命・安全に直結する下水道のインフラ整備をお遊びゲームと同列に語るのは言語道断です。

 

地中にある下水管の老朽化の度合いは、地上に住む素人市民が認知できるものではありません。自覚症状が全くないからといって、アルコールやタバコの摂取を長年続けていると、気が付いたときには、アルコール性肝硬変や肺がんで手遅れになる、という状況にある意味で似ているかも知れません。

 

下水道インフラについて、適正水準の持続的な維持管理や改修工事を怠れば、行きつく先は市民の生命・安全の棄損です。インフラ整備予算を適正水準の半分に抑制している泉房穂市長の市政運営は、危うい棄民政策にほかなりません。

 

 

(参考)下水道インフラ投資額の長期的トレンド

事業予算に比較的恵まれていた平成11年度から、現在に至るまでの明石市の下水道事業のインフラ投資額(決算額)の推移を示します。泉市長が就任する前から公共投資の抑制が続いていましたが、泉市長就任後、その傾向がますます顕著になっていることが判ります。

 

なお、明石市の下水道事業は、平成28年度から企業会計に移行しました。その直前の時期の平成26年度には下水道部局では、企業会計移行後、インフラ投資額を反転させたいという希望的な計画も練られていたようです(下図の破線部分)。

 

しかし、本稿で説明してきたとおり、企業会計移行後にも、インフラ投資額のさらなる減少が続いているのが現実です。