泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

明石市税の徹底解剖(前編) 市長持論の「人口増が税収増に直結」は大嘘!?

泉房穂明石市長は、テレビのインタビューなどで、「明石市の人口増加率は9年連続1位(中核市の中で)」「税収は8年前との比較で32億円増」などと述べ、人口増が税収アップに結びつく好循環が生じていると自画自賛しています。果たして、本当なのでしょうか。

 

全く基礎知識がなければ、市長発言を真に受けてしまうかも知れませんが、公式な公表情報を少し覗いてみただけで、「人口増が税収増に直結」という市長の主張は、根拠のない口からのナンとかだということが一目瞭然です。

 

今回は、

・2010年時点(泉房穂市長着任直前)と10年後の2020年を比べると、一見、予算が大幅に増加しているよう思えるものの、実態としては国や県からの配分の増大が主要因であり、地方税(市税)自体が大きく増えた訳ではない

地方税(市税)は、10年間で10%程度増大しているものの、全国的には平均レベルの伸び率に過ぎない

という客観的な事実をお示しします。

 

前回の記事で提示した歳出予算のグラフ(市長がテレビ番組で用いたフリップ)では、明石市の一般会計予算は、2010年度の948億円から2021年度には1195億円と、10年間に26%もの大幅増加を示しています。人口増が税収アップに結びつく好循環が生じている、といった市長の自慢話の流れの中でこのグラフを見せられると、あたかも、人口増の効果によって、明石市民や明石に立地する法人(企業)が市に納めた市税が10年間に26%もの大幅増を示したかのような誤解を招きかねません。(おそらく、このような誤解を誘導するための、悪意あるPRだと推察しますが)

 

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

 

泉市長が提示するデータは、「予算」の数値を用いることが多いですが、市政の実績を評価するのであれば、本来は「決算」の数値を用いるべきものです。「予算」は、資金の調達や実施する事業の内容や所要額に関する事前計画であり、実際に、調達した資金の額や内訳、実施した事業の実績・執行額を次年度に事後的にまとめたものが「決算」です。(2020年度と21年度の明石市の決算は議会承認されていませんが、今回はこの点には言及しません)

 

そこで、予算の代わりに決算の数値を用いて、泉市長が市長就任直前の2010年度と直近の歳入額を比較してみましょう。明石市のホームページから数字を拾うと、2010年度の一般会計の歳入額は2010年度の978億円に対し、2019年度は1062億円、2020年度は1471億円、2021年度は1301億円となっています。

 

2010年度と比べた歳入の増加率は、2019年(R1年)度は9%、2020年(R2年)度は50%、2021年(R3年)度は33%となり、とりわけ20年度と21年度は突出した高い伸び率を示しています。このように、20年度と21年度の歳入の激増は、明石市だけではなく全国全ての自治体で見られる現象です。ではその背景に何があったかというと、新型コロナウイルス感染症です。

 

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、重症患者や死者が急増し、外出自粛、飲食の自粛などに伴い、国民の経済活動が縮減して景気が冷え込み、未曾有の大不況が懸念されました。そのような中、中央政府(国)では、自治体における感染症対策の支援、特別定額給付金の給付、自治体による経済対策の支援、地方税の減収分の補填などのため、莫大な補正予算を組んで、都道府県や市町村に配分したのです。

 

20年度と21年度は国・自治体ともコロナ禍における特殊な財政運営が行われていたため、予算・決算額の額や内訳は例年と比べるとイビツな値になっていることがあり、過去のデータと比較して推移を評価する際には十分に留意する必要があります。

 

このような特殊要因を念頭におきつつ、明石市の一般会計決算における市税、国県支出金、地方交付税交付金、市債の各セグメントごとに2010年度と比較すると、20年度は市税で1.11倍、国県支出金2.88倍、地方交付税交付金1.24倍、市債1.03倍、21年度は市税で1.12倍、国県支出金1.99倍、地方交付税交付金1.60倍、市債0.78倍となっています。

 

ここで注目すべきは、市税についてです。国県支出金や地方交付税交付金はいずれも、国や県から自治体に配分されるお金であり、必ずしも市の財政運営の真の実力とは言えません。ですので、歳入総額が伸びたからといって、市長の財政能力が高いことを意味するものではありません。それに対し、市民や市内に立地する企業(法人)が、住民税や固定資産税などの形で市に納付する税金である市税こそが、市の財政力や財政運営能力を評価する指標とすべき値なのです。

 

このようなことから、2010年度以降の明石市の市税の決算額を内数として書き加えて、歳入額を年度ごとに示します。

 

繰り返しになりますが、2010年(H22年)度と比較すると、20年(R2年)度の市税は1.11倍、21年(R3年)度は1.12倍になっています。ただ、明石市の数値だけを示されても、果たして1.11~1.12倍という値が高い値なのか、低い値なのか評価しようがないですね。泉市長殿のご持論では、自らの市長在任期間中に、人口が増え、それに伴い税収が増大したというものですが、市長見解の妥当性は、他の自治体の税収の推移と比較すれば一目瞭然です。

 

全国レベルで考えると、明石市の税収の伸び率は「中の中」の水準に過ぎない

全国の市町村の市町村税収(町村では、市民税に該当する町民税、村民税)の2010年(H22年)度から20年(R2年)度までの比較が、令和4年版地方財政白書に掲載されています。

 

 

いかがでしょうか。全市町村の市町村税収の決算額は、2010年(H22年)度と比較して19年(R1年)度は1.13倍、20年(R2年)度は1.11倍となっています。明石市の数値を比較するとどうでしょうか。明石市の市税決算額の推移は、2010年度と比較して19年度は1.12倍、20年度は1.11倍でしたね。市長殿は、「税収アップによる好循環」を主張されていますが、なんてことはない、全国レベルで考えると、明石市の税収伸び率は「中の中」の水準に過ぎないのです。

全国の市区の中で、明石市の市税の伸びは果たして何位?

引き続いて、「地方財政統計年報」のデータベースにあたって、全国都市(市と特別区)における2010年度と20年度の市区税の金額をピックアップし、明石市の市税の伸び率が全国で何位になるのか検証してみました。答えは、以下の長い表をスクロールしてください。10年間で1.1倍を超える204位までの市区を列記します。

 

順位 市区名 市区税伸び率 2020年度市区税額 
(2020年度/10年度)     (単位:千円)
1 中央区 1.607 32,478,391
2 千代田区 1.475 20,573,851
3 合志市 1.467 7,594,868
4 南城市 1.458 3,819,367
5 印西市 1.427 21,477,597
6 松浦市 1.427 5,487,827
7 石垣市 1.413 6,161,616
8 渋谷区 1.403 55,283,311
9 出雲市 1.402 23,227,991
10 港区 1.401 82,850,638
11 豊見城市 1.400 6,817,525
12 宮古島市 1.391 6,309,684
13 うるま市 1.355 12,625,845
14 流山市 1.347 30,370,264
15 福津市 1.342 6,852,714
16 瀬戸内市 1.337 6,109,990
17 台東区 1.335 23,543,307
18 品川区 1.334 52,996,147
19 江東区 1.329 55,350,524
20 墨田区 1.321 26,488,205
21 糸満市 1.319 6,070,168
22 宜野湾市 1.317 11,965,570
23 文京区 1.314 36,317,776
24 新宿区 1.304 50,011,064
25 つくばみらい市 1.297 8,207,909
26 川崎市 1.296 365,387,980
27 沖縄市 1.286 15,969,874
28 福岡市 1.285 341,070,017
29 みよし市 1.281 15,546,878
30 荒川区 1.278 18,437,450
31 豊島区 1.270 34,825,599
32 さいたま市 1.268 274,685,901
33 仙台市 1.268 218,822,321
34 西尾市(※) 1.260 31,906,386
35 熊本市 1.260 116,856,952
36 東広島市 1.256 37,375,969
37 目黒区 1.254 47,686,802
38 浦添市 1.252 16,803,268
39 名護市 1.250 6,990,771
40 名古屋市 1.248 594,560,036
41 つくば市 1.246 47,155,601
42 那覇市 1.243 50,121,541
43 川口市 1.241 98,362,445
44 四日市市 1.239 73,554,812
45 豊田市 1.233 106,952,270
46 栃木市 1.230 22,233,506
47 相模原市 1.226 131,083,049
48 瑞浪市 1.225 6,040,247
49 足立区 1.225 51,515,303
50 中野区 1.224 36,085,362
51 北区 1.223 30,877,737
52 大府市 1.220 19,052,165
53 札幌市 1.219 335,437,317
54 八潮市 1.218 17,432,953
55 木更津市 1.214 20,604,398
56 世田谷区 1.213 128,612,553
57 千葉市 1.213 205,619,762
58 京田辺市 1.209 11,467,164
59 京都市 1.207 295,943,361
60 日進市 1.207 16,042,217
61 横浜市 1.204 843,869,813
62 能美市 1.200 8,791,227
63 三郷市 1.199 23,212,141
64 浜松市 1.197 148,177,952
65 日向市 1.196 8,039,340
66 知立市 1.195 12,765,976
67 射水市 1.194 15,374,546
68 いなべ市 1.190 9,943,383
69 江戸川区 1.190 56,806,618
70 大阪市 1.190 744,662,939
71 岡山市 1.186 128,978,996
72 大田区 1.180 78,562,537
73 高浜市 1.179 9,355,012
74 遠野市 1.177 2,669,199
75 広島市 1.177 236,747,785
76 板橋区 1.176 48,482,243
77 潟上市 1.176 2,856,779
78 薩摩川内市 1.175 13,799,621
79 木津川市 1.175 10,260,837
80 田村市 1.175 3,877,235
81 美作市 1.170 3,537,367
82 刈谷市 1.169 36,290,416
83 白河市 1.168 9,379,398
84 富士見市 1.168 15,728,370
85 白山市 1.167 18,281,628
86 宮若市 1.167 5,375,922
87 葛飾 1.167 35,416,189
88 出水市 1.166 5,814,037
89 志布志市 1.165 3,767,790
90 名取市 1.164 11,954,024
91 春日市 1.163 13,478,619
92 朝霞市 1.163 23,205,901
93 岩出市 1.162 6,096,018
94 神埼市 1.161 3,603,083
95 筑後市 1.160 6,380,046
96 弥富市 1.157 8,523,983
97 栗東市 1.157 13,443,023
98 上越市 1.157 30,977,169
99 野洲市 1.156 8,831,027
100 練馬区 1.156 69,278,731
101 古河市 1.154 21,238,129
102 稲城市 1.154 15,809,875
103 日置市 1.154 4,855,889
104 曽於市 1.153 3,371,517
105 行橋市 1.151 8,152,744
106 吉川市 1.151 9,877,720
107 杉並区 1.151 67,511,196
108 堺市 1.149 151,240,872
109 相馬市 1.149 5,183,509
110 鹿屋市 1.149 11,218,430
111 北上市 1.148 14,235,610
112 姶良市 1.147 7,729,608
113 西都市 1.147 3,244,867
114 厚木市 1.146 48,785,571
115 武蔵野市 1.146 41,823,423
116 大村市 1.144 11,650,751
117 向日市 1.144 7,860,278
118 神戸市 1.143 305,465,511
119 草津市 1.143 23,402,537
120 海老名市 1.140 23,669,353
121 つがる市 1.140 2,672,027
122 和光市 1.139 15,648,064
123 北斗市 1.139 5,296,312
124 中野市 1.138 6,180,867
125 下妻市 1.138 5,890,198
126 半田市 1.137 23,970,227
127 登米市 1.136 7,754,407
128 新潟市 1.136 133,682,198
129 宇土市 1.136 4,098,436
130 東松島市 1.135 3,875,958
131 鉾田市 1.135 5,288,444
132 八代市 1.135 15,312,091
133 旭市 1.133 7,769,757
134 土岐市 1.133 8,081,601
135 守谷市 1.132 12,044,079
136 太田市 1.131 38,040,721
137 習志野市 1.131 28,603,252
138 安城市 1.130 39,544,818
139 藤沢市 1.130 82,067,712
140 一関市 1.129 12,664,746
141 岩倉市 1.129 7,014,438
142 あま市 1.128 11,242,246
143 いわき市 1.128 51,385,681
144 座間市 1.127 19,455,489
145 岡崎市 1.126 70,828,863
146 八千代市 1.126 29,970,309
147 狛江市 1.126 12,910,372
148 三鷹市 1.126 38,403,959
149 石巻市 1.125 19,341,416
150 天童市 1.125 8,613,720
151 紋別市 1.124 3,023,066
152 大船渡市 1.124 4,317,273
153 みやま市 1.124 3,736,113
154 各務原市 1.123 22,645,056
155 滑川市 1.123 5,227,026
156 ふじみ野市 1.122 16,704,547
157 鳥栖市 1.122 13,125,524
158 中津市 1.121 11,255,988
159 奄美市 1.121 4,168,531
160 市川市 1.121 86,562,771
161 小城市 1.120 4,369,181
162 東温市 1.119 4,144,610
163 東根市 1.118 6,819,785
164 菊池市 1.118 5,512,780
165 豊明市 1.118 10,956,780
166 瑞穂市 1.118 7,149,635
167 石狩市 1.118 8,720,296
168 静岡市 1.118 139,758,947
169 小金井市 1.117 21,827,142
170 一宮市 1.117 51,377,311
171 南九州市 1.116 3,774,206
172 芦屋市 1.115 23,271,345
173 玉名市 1.115 6,931,049
174 大野城市 1.115 14,024,023
175 新座市 1.114 24,957,263
176 明石市 1.113 43,590,526
177 武雄市 1.112 5,696,800
178 柏市 1.112 69,218,634
179 うきは市 1.111 2,879,358
180 さくら市 1.111 6,898,931
181 調布市 1.111 47,291,445
182 草加市 1.111 37,470,188
183 栗原市 1.110 7,378,975
184 香美市 1.110 2,661,530
185 本庄市 1.110 11,625,961
186 小林市 1.109 4,891,692
187 下野市 1.109 9,894,182
188 鯖江 1.109 9,773,908
189 安中市 1.108 10,624,946
190 北九州市 1.108 174,595,776
191 都城市 1.108 19,762,285
192 坂東市 1.106 7,866,105
193 戸田市 1.106 28,648,971
194 豊中市 1.104 70,090,257
195 豊後大野市 1.104 3,412,404
196 高崎市 1.104 62,070,609
197 本宮市 1.104 4,488,575
198 和泉市 1.104 24,009,805
199 船橋市 1.104 102,585,206
200 土佐市 1.103 2,672,883
201 江南市 1.102 13,078,175
202 糸島市 1.102 9,990,370
203 久留米市 1.100 41,504,304
204 越谷市 1.100 49,787,789

 

人口増加率と税収の伸び率の相関関係についてこれ以上統計学的に検証するまでも無く、自治体の人口増加率と地方税の伸び率には何ら因果関係がないことは、火を見るより明らかですね。

 

次回はさらに、明石市の市税の税収について深堀していきます。

 

(注釈)市区税の伸び率ランキングの表について、1点注記します。それほど数は多くないですが、この10年間に市町村合併や町から市制に移行した自治体が存在します。前者の例として、2011年には埼玉県鳩ヶ谷市川口市に併合され、島根県出雲市が簸川郡斐川町編入しています。後者の例としては、2012年に愛知県長久手市や埼玉県白岡市が市制施行しています。2010年と20年度のデータを比較する際には、本来はこのようなケースについてはデータ補正すべきですが、手抜きになりますが原則としてデータ補正せずランキング表を作成しました。

唯一の例は、愛知県西尾市です。西尾市の市税収は、2010年度の194億円が翌11年度には283億円と急増しています。この背景として、西尾市は11年に幡豆郡一色町吉良町幡豆町の3町を併合しました。11年度以降西尾市の税収には、この3町分の税収も包含されています。このため、上のランキング表では、西尾市だけは、10年度ではなく11年度の283億と20年度の319億円という金額を比較し、1.26倍という数値を弾き出しています。