泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

兵庫県10万人都市税収増加率と明石市の市税

2月23日付けの神戸新聞は、加古川市岡田康裕市長が23日の定例会見で、泉房穂明石市長の〈人口増→税収増→子育て支援などの財源〉という好循環実現の主張について「本当に好循環が生じているのか」「明石市の人口増による税収増は数字のマジック」と疑問を呈した旨を報道しています。

 

神戸新聞の記事をそのまま引用します。

 

加古川市長「明石市の人口増による税収増は数字のマジック」 泉市長の市政運営に疑問

神戸新聞NEXT/神戸新聞社 – 2022年12月23日

 

 兵庫県加古川市岡田康裕市長は23日の定例会見で、明石市泉房穂市長の〈人口増→税収増→子育て支援などの財源〉という好循環実現の主張について言及し、財政分析から「本当に好循環が生じているのか」と疑問を呈した。

 

 岡田市長によると、明石市の2021年度の地方税収は11年度比で約39億5千万円増えたが、日銀の金融緩和などの影響で、人口が同規模の自治体の地方税収は平均約22億5千万円増えたという。さらに明石市中核市になったことで新たな税財源が約16億7千万円増え、それを加味すると人口増による税収増は見えない」と指摘。人口増による大幅な税収増が「数字のマジックでは」と疑問を投げかけた

 

 加古川市民から「明石市と同じ子育て支援策をすれば人口が増える」と求められることが多いといい、岡田市長は「(明石市子育て支援策は)最初にやったところだけの先行者利益。それが自治体運営のかじ取りの哲学として正しいのか。政治家としてしていることは、弱肉強食以外の何ものでもない」と批判した。

 

一方、泉房穂市長は、ほぼ同じタイミングで、兵庫県における人口推移に関してグラフを引用する形で、次のようにツイートしています。

 



今回は、泉市長殿にならって、2012年度から2021年度の兵庫県10万人都市の市税の税収の変化率を比較して、泉明石市長と岡田加古川市長の言い分を検証してみることにします。

 

ということで、泉房穂市長が、ツイートしている人口増加率のグラフと全く同一の作業プロセスにより、2012年度から2021年度にかけての兵庫県10万人都市の市税の税収の対2012年度変化率をグラフにしてみました。

 

 

明石市尼崎市、西宮市、伊丹市宝塚市、神戸市、姫路市川西市加古川市三田市の10市について、泉市長の人口増加率のグラフと折れ線の色は、共通です。

 

ただし、税収増加率のグラフでは、泉市長による人口増加率グラフに次の3項目だけ追加しています。

  1. 10市以外の兵庫県内29市全体の市税の税収推移をピンク色で示した
  2. 人口10万人にわずかに満たない芦屋市の税収推移を紫色で示した
  3. 2017年度以降、仮に事業所税が無かりし場合の明石市の税収推移を青の点線で示した(グラフの凡例では、「明石市補正」と記載)

 

さて、税収の推移を見るに当たって、一つ留意しておくべき点があります。というのも、2020年度と2021年度については、新型コロナ感染症の大流行という非常事態の中で、国・各自治体とも平時とは異なる特殊な財政運営・政策運営が行われました。家計や企業への給付金をはじめとする経済対策の実施のため大規模な補正予算が編成され、国から地方にも莫大なお金が転移されました。新型コロナ感染症により業績が悪化した企業や罹患者には、納税の猶予措置が設けられました。

 

2020年度は各自治体とも、税収は悪化しました。そして、2021年度も引き続き税収悪化傾向が続くことが懸念されていました。ところが、国の積極的なテコ入れの効果もあり、業績が予想以上に好調な企業が増加し、結果として、2021年度には税収が上昇した自治体もあります。ただし、景気回復が遅れた地域では、2021年度も税収が低下し、自治体の中で明暗を分けた形です。

 

このように、2020年度と2021年度は、コロナ禍における特殊状況下の税収であることから、税収の推移を検討する際には、参考程度に止めて考察したほうが無難です。

 

さて本題に戻って、税収増加率のグラフをご覧いただき、明石市の折れ線(青色の太線)

を中心に眺めていただくと、次のような事実に気づくことでしょう。

  • 明石市の市税の税収は、2021年度以降、一貫して上昇を続けており、兵庫県下の29市合計の税収の伸び率(ピンク色の線)を上回っている
  • しかし、明石市の税収の伸び率は、決してオンリーワンではなく、常に芦屋市(紫色の線)を下回っており、2018年度以降は神戸市にも追い抜かれている
  • 明石市の市税は2017年度から2019年度にかけて比較的高い伸びを示しているが、これは、2018年度から事業所税が課税されたことが主因である。仮に事業所税が無かりし場合、2017年度以降の明石市の税収推移(青の点線)はほぼ横ばいであり、兵庫県下29市合計の伸び率(ピンク色の線)を下回る水準に留まっている。

 

ここで、岡田加古川市長のインタビューでの発言(神戸新聞の記事)を思い出してください。

明石市中核市になったことで新たな税財源が約16億7千万円増え、それを加味すると人口増による税収増は見えない」と指摘。人口増による大幅な税収増が「数字のマジックでは」と疑問を投げかけた。

 

 

明石市中核市になったことで新たな税財源が約16億7千万円増え」たというのは、厳密には正しい理解ではありません。時々誤解されている人がいますが、明石市において2018年度から課税が開始された「事業所税」の課税は中核市であることが要件ではなく、人口30万人が要件なのです。(以下の前回の記事もご参照ください)

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

 

明石市では、2018年7月から事業所税の課税が始まりましたが、仮に事業所税の課税がない場合には、上述のとおり、明石市の税収推移(グラフの青色の点線)はほぼ横ばいであり、兵庫県下29市合計の伸び率(ピンク色の線)を下回る水準に留まっているのです。岡田加古川市長による、「明石市の人口増による税収増は数字のマジック」との批判は、この実態を踏まえたものだと思われます。

 

明石市の市税の推移を冷静に評価すると、決して、劣悪な状態ではありません。しかしながら、泉市長殿が自慢するような傑出した高いレベルではないのです。先日も紹介したとおり、全国レベルでみても「中の中」の水準に過ぎません。

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

 

そもそも、税収は様々な要因によって影響を受けるものであり、人口増が税収増をもたらす、という単純なものではありません。もちろん、人口増が税収の増加に寄与する事実は否定しませんが、人口増が税収増に寄与する割合はごくわずかなものに過ぎません。

 

そして、明石市の市税が、可も無く不可も無いそこそこの水準を維持できているのは、自然的、地理的、社会的、歴史的な諸条件が明石市は恵まれ過ぎているからであって、決して泉市長の功績ではありません(この点については、後日論じます)。明石市のような恵まれた境遇の中で、人口増が続いているにも関わらず、好循環が生じず、在任期間中の市税の伸び率が「中の中」のレベルに留まっていることは、泉市長の市政能力の限界を何よりも物語っています