泉房穂(前)市長の御言葉を検証する明石市民の会

泉房穂(前)市長の過去の発言を振り返り、明石や日本の将来について考えます

庁舎建設基金の積み立てを市長が独断で凍結してしまった経緯とその禍根

泉房穂市長は、自らの在任期間中に明石市基金残高を70億円から121億円にまで増やしただの、基金残高が増えているのでそれを財源に高齢者施策や児童手当拡充が可能といった主張を展開しておられます。

 

基金の運用を巡るこのような市長発言が、ナンセンス極まりない妄言であるということを、本ブログでは3回にわたって指摘してきました。

 

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

akashi-shimin.hatenablog.jp

 

前回のブログ記事では、自治体の基金は、財政健全化基金、減債基金、その他特定目的基金という3つのカテゴリーに大別され、いずれの基金についても、貯めたお金の使い道は条例で定められており、市長の趣味や思い付きで勝手に流用できるものではないということを説明しました。

 

その上で、市長が70億円から121億円にまで増やしたと自画自賛している基金は、経済情勢の急激な悪化により十分な税収が確保できないときや、大規模災害の発生により急遽多額の出費を要するときなど、年度途中での不測の事態に備えた貯金であり、予算編成段階で高齢者施策や児童手当拡充に利活用できるものではない、という事実を明らかにしました。

↓ (この記事です)

 

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繰り返しになりますが、在任期間中に70億円から121億円に50億円増やした豪語している基金は、不測の事態が発生したときに備え、お金のやりくりに支障をきたさないよう積み立てているものです。一方で、このような財政調整のための基金以外にも、市の基金には特定目的のための基金がいくつか存在します。財政調整のための基金については、上述のとおり一定の積み増しが行われているものの、明石市では後者の特定目的の基金ついては、積立がストップしたままになっている、という内実があります。

 

今回は、基金の積み増しが凍結されている「庁舎建設基金」にスポットをあて、問題の所在について考えます。

 

明石市の庁舎建設基金とは何か

新庁舎、すなわち新しい市役所の整備は、明石市政おける一大トピックスですよね。現在の中崎の地に建て替えるのか、それとも大久保に移転するのか、役所機能を分散化するのか、中崎に残るとしても、具体的にはどこに建てるのか、消防署や駐車場はどうするのか、砂利揚げ場の跡地はどうなるのか、などなどの論点で、この10年間、市政は混迷を深めてきました。

 

市役所建て替え問題の迷走の背景には、地域エゴや総論賛成・各論反対の個別議員の思惑があり、利害の集約・調整が困難であった事情があることは否定できません。とはいえ、なんといっても泉市長の調整能力の不足、リーダーシップの欠如など市長個人が最大のネックであることは論をまちません。

 

それはさておき、今回の議論の対象は、もっぱら新庁舎整備の財源です。ここで一つ問題です。もしあなたが市長であれば、庁舎建設に要する費用をどのように工面しますか? この問には、唯一正しい解が存在するわけではありませんが、マンションであれ戸建であれ自宅の購入をイメージして考えてみてください。

 

例えば仮に3000万円の分譲マンションを購入する、あるいは戸建で住宅を建てるとします。金持ちジュニアであれば、全額親からの資金援助で3000万をキャッシュ払いするかも知れませんね。あるいは若い時から倹約してコツコツお金をためて、3000万円に達した時点でローン無しで購入する人もいるでしょう。しかし、多くの人は、ある程度は頭金を準備しつつも、10年ないし30年にわたって住宅ローンを組むのではないでしょうか。

 

では、住宅ローンを組むとした場合、頭金とローンの比率はどのように設定すべきでしょうか。頭金が少ないと将来の負担が心配です。ボーナス月に多めに返済する計画を立てていたところ、不景気でボーナスがカットされ返済が滞って自宅を手放す羽目になる気の毒な人もいます。金利の上昇も心配です。なので、できる限り、頭金を貯めてから購入した方が無難ですよね。

 

現在の収入や貯金の額、あるいは将来の収入の見通しにもよりますが、3000万円の物件であれば、2割か3割、金額にして600万~900万円ぐらい頭金が準備できる状態であれば、余裕をもって住宅ローンが組めるのかな…、こんな風に考えるのではないでしょうか。

 

実は、市役所の庁舎建設についても、個人の住宅購入と全く同じ話なのです。総工費が幾らで、そのうち基金に積む額と起債の割合をどうするのか、ということが市議会でたびたび議論になってきました。個人の住宅に当てはめると、総工費は住宅購入額、基金の額は頭金、起債は住宅ローンに相当します。

 

ここでようやく、本題である基金の用語が登場しました。本稿の冒頭で、基金にはいくつもの種類のものがあって、それぞれ特定の目的があって積み立てられていると説明しましたが、新庁舎建設にあたり、建設が始まるまでに頭金にするべく貯めている貯金が、「庁舎建設基金」なのです。

 

庁舎建設基金の積み立ての経緯

以下において、明石市議会の議事録をたどりながら、庁舎建設基金の経緯を追っていきます。

 

明石市庁舎建設基金条例」という条例が制定されたのが平成18年度のことで、当初は平米単価35万円前後で総工費は70~80億円と試算、7割を起債(ローン払い)で賄い、残りの20億円程度を基金として積み立てる計画だったようです。

 

基金積立は18年度から開始し、18年度と20年度に1億円づつ積み立てていましたが、その時期は景気が低迷し、市の財政状況も極めて厳しかったことから19年度と21~23年度は積み立てがゼロでした。

 

平成24年度頃から財政状況が若干改善してきたこともあり、24年度には3億円を積み立てました。その頃には、市の財政当局は総工費を100億円、起債充当率を75%とし、基金積立目標額を25億円と見積もり、各年3億円を積み立てれば2020年度までに25億円を達成可能と考えていたようです。

 

平成25年12月議会の12月19日の定例会では、梅田宏希議員の質問に対し、総工費について現行規模で建て替えると約96億円、規模をやや拡大すると128億円、建て替えではなく耐震補強工事だと60億円いう試算が示されています。そして梅田議員から、基金についての考え方を問われ、泉房穂市長は、次のように答弁しています。

 

まず、基金につきましては、私としては、私、市長就任後につきましては、しっかりと対応しておる認識ですし、今後もですが、厳しい財政状況であったとしても、しっかりと将来を見越して基金の積み立てはしてまいりたいと考えております

 

その後、平成25年度3億円、26年度4億円、27年度4億円を積み増し、27年度末で累積16億円に到達します。

 

27年度の時点では、総工費は約130億円、起債充当率を75%とし、基金積立目標額を32億円と見積もっていたようで、平成27年9月議会の9月11日定例会での山崎雄史議員の質問に対し、泉市長は、「ほぼ当初の予定の半額近くに本年度末になる予定」と答弁しています。

 

基金につきましては、順次積み立てを続けておりまして、平成26年度末時点で約12億円、平成27年度も積み立てますので、ほぼ当初の予定の半額近くに本年度末になる予定でございます。もっともですね、既に先ほどご答弁申し上げましたが、当初、全額もう市で負担をするといいますか、そういう前提でおりましたが、最近ではいろんな知恵もあるようでして、民間の知恵を、力をおかりするなどして、市民の負担額を減らすというようなこともあり得そうに思いますので、そのあたりもよく調査、研究をし、できる限り市民の負担を減らし、より市民の納得の得られる方向づけという観点からも、まさにしっかりと検討してまいりたいと考えております。

 

庁舎建設基金の積み立て凍結の背景事情

上述のとおり、25年12月には、「今後もですが、厳しい財政状況であったとしても、しっかりと将来を見越して基金の積み立てはしてまいりたい」と答弁していた泉市長殿ですが、27年9月の答弁では、「ほぼ当初の予定の半額近くに本年度末になる予定」としたうえで、「民間の知恵を、力をおかりするなどして、市民の負担額を減らす」といったことを述べ、軌道修正に含みを持たせています。

 

実はこの答弁をした時期、市長の腹の中では、基金の積み増しをストップし、基金積み増しに充てる予定だった費用を別の用途に流用することを企てていたようです。市長と副市長以下市役所スタッフとの間で、財源の扱いを巡って侃々諤々の議論があったと推察しますが、PFIを活用して総工費を抑制するという触れ込みで、28年度からは、庁舎建設基金の積み増し中止を断行します。

 

そして、庁舎建設基金の積み増しに充てる予定であった年間4億円の財源を、28年度からは「第2子以降の保育料の完全無料化」に振り替えることにしたのです。

 

それ以降、役所側は、庁舎建設基金を巡っては、次のような答弁を繰り返すようになります。

 

平成29年3月議会の3月1日の尾倉あき子議員の質問に対する宮脇理事(総合戦略担当)兼政策部長の答弁です。

 

建設費の想定試算に基づき、平成18年の基金の積み立て当初は目標額を25億円程度としておりました。その後、建設工事単価の上昇等を踏まえ、32億円を目標に積み立ててきたところでございます。しかしながら…子ども関連など重点施策の財源確保を優先していくため、また基金の積み立ても市民の皆様の大切な税金によりご負担いただくものであり、可能な限り負担を抑制するという考えのもと、本年度より積み立てを停止し、事業費の抑制に向けた検討に取り組んでおるところでございます。

 

次に引用するのは、30年10月日の総務分科会での永井俊作議員の質問に対する山口新庁舎担当課長の答弁です。

 

現在の庁舎建設基金の積立額は、分科員ご指摘のとおり約16億円となっておりまして、平成27年度まで積み立てをしておりましたが、その後はこどもを核としたまちづくり等の重点施策推進に向けた財源をやりくりするため、それ以降の積み立ては停止しております

 今後も、基金の積み立てにつきましては現在のところ予定していないところではございますが、基金を積み立てる場合でありましても、やはりその原資となりますのは市民の皆様の大切な税金でございますので、まずはでき得る限りの財政負担の軽減を、庁舎整備に当たり検討してまいりたいと考えております。

 

 

庁舎建設基金の積み立て凍結が意味すること

先ほどの住宅ローンの話を思い出してください。3000万円でマイホームを購入したい、頭金として25%の750万円を貯めようとパートナーと相談していました。その半額の375万円が溜まり数年後にあと375万円溜まった時点で家を買おうと具体的検討を始めていた矢先に、パートナーに無断で、375万円で趣味のスポーツカーを別途ローン購入してしまった。車購入の例が良くなければ、パートナーに内緒で子育てNPOあるいはウクライナ支援募金に375万円を寄付したとしましょう。寄付行為を公共善として評価する人もいるかも知れませんが、その事実を後で知ったパートナーが、うちにはそんな金銭的余裕は無いとブチ切れるのは必至ではないでしょうか。

 

個人の住宅購入における頭金として確保すべき額について、唯一正しい解が存在するわけではなく、個々人で考え方は大きくことなります。同様に、市役所の建築費用の工面の仕方も自治体によって考え方は様々で、基金でいくら積み立てておかなければいけないという絶対的なルールは存在しません。

 

しかし、他の自治体の例なども踏まえると、総工費の1割強しか積み立てずに庁舎を建造するのは、財政の健全性を考えるとあまりにも無責任ではないか、といった反発の意見が市議会では相次ぎました(脚注として、記事の最後で、市議の意見をいくつか紹介します)。

 

ちなみに、愛知県半田市では昭和63年から庁舎建設のための基金を積み立て、建設費用約64億円のうち、基金の積み立ては約56億6,000万円で、黒字であった水道事業からと、国、県からの補助金とで、起債をせず全て自己投資で建設しました。また、長崎市では新庁舎建設の総事業費を約260億円と見込み、平成4年から庁舎建設整備基金を設置し所要額の6割以上の160億円を基金として積み上げてきたようです。

 

泉市長殿は日頃からこう主張しています。無駄な公共事業をカットして、子育て支援の経費をやりくりしてきた、と。しかし、この主張が全くの出まかせであることは、もはや明らかですね。なんて事はない、本来、市役所建設という市民にとって重要なインフラ整備のための貯蓄に回すべきお金をカットして、子育て支援と称した選挙目当てのバラマキに転用しているだけなのです。

 

 

 

市役所建造は無駄な公共事業なのでしょうか。そんなことはありません。市民サービスを円滑に実施する上で、とりわけ災害などの危機発生時には市民生活支援活動の拠点として、一定水準の庁舎の整備は不可欠です。その庁舎整備の頭金に手を付けることは、結局は将来世代に借金のツケを回すことにほかならず、将来世代の福祉の低下に帰結するのです。

 

今後、市場金利の上昇も懸念されています。25年12月には、「今後もですが、厳しい財政状況であったとしても、しっかりと将来を見越して基金の積み立てはしてまいりたい」と答弁していた泉市長殿が、その約束を反故にし、16億円の積み立てを辞めてしまったことで、明石市の将来に大きな禍根を残すことになってしまったのです。

 

(予告)

庁舎建設基金の転用問題については、次回の記事でも引き続き取り上げます。ご期待ください ^^/

 

 

(脚注1)庁舎建設基金の積み立て凍結に対する市議の意見の例

 

庁舎建設基金の積み立て凍結の方針を巡っては、市議会で次のような批判的意見が相次いで出されてきました。これらの質問をされた議員はいずれも、泉市長殿がのたまう「公共事業利権」とは全く無縁の方々だと思われます。

 

28年3月11日の総務常任委員会では、出雲晶三議員が、PFI導入の可能性を持ち出した当局を批判した上で、25億円ぐらいは積み立てが必要と主張しています。

 

29年3月議会の3月1日定例会では、尾倉あき子議員が、明石市の16億円という積み立ては、他市の例も踏まえるとあまりにも少額であり財政面で大変危惧していると述べています。

 

29年6月27日の新庁舎整備検討特別委員会では、松井久美子議員が、基金の積み立てが16億円にとどまることに対し、財源確保の方向性を明確に示すよう求めています。

 

30年9月議会の9月18日定例会においては、中西礼皇議員が、子育て支援をしたいからといって基金を積まなくなるというのは無責任だと、当局を厳しく追及しています。

 

30年10月3日の総務分科会では、永井俊作議員が、新庁舎の整備費の3割から4割ぐらいは自前でしっかり確保すべきと指摘しています。

 

 

(脚注2)庁舎建設の財源確保の顛末

 

泉市長の方針で、庁舎建設基金の積み立てが凍結されたことに伴い、市の担当部局では、代替財源の確保等の検討に忙殺されることになってしまいました。

 

脚注1で述べたとおり、市議からは厳しい意見が相次ぎますが、当局は、PFIの導入など民間資金の活用の可能性を示唆したり、「必要な機能を確保しつつも現庁舎を下回る規模を目指し、スリム化、分散化の方向で検討を進めていく」だの「民間活用が可能となる土地の売り払い収入により財源を調達して賄う」ことの検討、あげくの果てには、「みずから庁舎を建てることなく、賃借により財政の平準化を図る手法等」についても検討しているなどと苦し紛れの答弁を続けます。

 

いずれにしても基金で積むことを予定していた16億円の代替財源の確保方策等の検討のために、当局はかなりの行政コストを浪費したと思われます。市の担当者たちは、市長の方針には逆らえませんが、本音では、「泉のバカの人気取りのために、どうして俺たちが振りまわされないといけないのだよ」と内心穏やかでなかっただろうとお察しします。

 

結局は、国の時限的な財政支援メニューである「市町村役場機能緊急保全事業」を活用ことにより、約28億円の交付税措置を受けることが可能となり、基金で積むことを予定していた16億円の代替財源の確保の目途は立ったことになります。

 

ただ、「市町村役場機能緊急保全事業」を活用可能になったとしても、当初の予定通り16億円を追加で基金に積んでいた場合と比べて、その分の利子負担が後年度にのしかかってくることは避けられません。